いろはにほへと



他の言葉があるの?


私がフィンクスに尋ねると
フィンクスはさあな、とだけ言って
向こうを向いてしまった。

寝ている私のすぐ頭上を
カサカサと虫が這う音がする。


彼は一体何者なんだろう。

なぜフィンクスを助けてくれたんだろう。


疑問が頭の中をぐるぐるとまわって
私は一晩中眠れずにいた。




翌朝、昨日彼が座っていた場所に行くと
既に誰もいなかった。

フィンクスは何事もなかったように
瓦礫を漁りはじめる。

私達は、週に一度降ってくるものとは別に
食べ物を常に探していたし
他に冬に向けて寒さを凌げるものや
使えそうな便利なもの
外の世界を知れるものを探していた。




私に言葉を教えてくれたのはフィンクスだった。

だけど、私達2人とも
文字は読めなかった。

だから、廃材に刻印されているものも
濡れた紙に印刷されたものも
何一つ意味がわからなかった。





この街の、外があるんだぜ。


いつの日かフィンクスが言った。


この街の外?


そう。
食べ物もあって、寒くなくて、それに




あの時フィンクスが
言葉をどう続けたのか覚えたない。


私には

外がどういうものなのか
どういう場所なのか
想像もつかなかった。



再びフェイタンを見たのは
それから数日後だった。


フェイタンは、麻袋の降ってくる私達の場所で座っていた。


あいつ、俺たちの食べ物を
横取りしようとしてねぇか?


フィンクスは
苛立った様子で、フェイタンに向かっていった。


勿論、フィンクスが何を言っても
フェイタンは空を見つめるだけで
何も返さなかったが
ときおり、持っていた鉄パイプを回したり、わざと倒したりした。



それは突然降ってきた。



その麻袋に1番に駆け寄ったのは
フィンクスだったし
フェイタンは座った場所から動かなかった。


なんだ、お前?
いらねぇのかよ?


フィンクスはポテトを頬張りながら
フェイタンに声をかける。


そんなフィンクスをただぼんやり見つめるだけで
フェイは何も言葉を発さなかった。


瓦礫の上に座るフェイタンを
私はなんだか
哀しい光景だ、と思った。


何も知らずにここにいる者と
何かを知ってここに辿り着いた者の違いだと認識したのは
それからずっと後のことだったけど
あの日のフェイは
哀しい
今にも泣き出しそうな
確かにそんな顔をしていたんだと思う。




フィンクスが投げてよこしたじゃがいもに
フェイタンは興味を示さなかった。

ただそれをチラッと見て
また視線を空に戻した。


フィンクスは俄然興味を持ったのか
毎日彼の座るあの場所に通った。



いつのまにか、あの場所は
私達の場所ではなく
フェイタンと私達の場所になっていった。






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