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ボロ雑巾のように殴られたり蹴られたりするフィンクスを目の当たりにしながら
私は何もできなかった。

フィンクスは頭から血を流して
それが目の脇や鼻の筋を伝った。

やめて。

その一言が言えなくて

ただ、呆然とそれを見ていた。


音もなく
フィンクスが弱っていくのを
ただ、ただ見ていた。



身体が痛い

違う、痛いのは私じゃない。


苦しい

違う、苦しいのは私じゃない


死んじゃう

違う、死んじゃうのは私じゃない



痛いよ、苦しいよ、死んじゃうよ



声が出なくて
涙が出て、それを押し殺すのに精一杯だった。




私はずっと下を向いていたから
何が起きたのかを見逃していた。

ただ地面に滴る自分の涙を見つめていて
静かになったその場所を見るのが怖くて
俯いていた。



おい。

いつまで泣いてるんだ。


フィンクスの声で顔を見上げると
フィンクスは傷だらけの顔で笑った。


お前、少しは戦えよ。



フィンクスが生きていたことに安堵し
声を上げて泣いて
近くでフェイタンが私を見下ろしていたことには気付いていなかった。







名前はなんて言うんだ?


フィンクスを危機から救ってくれた小柄な少年は
何も言わずに私達を睨むだけだった。

廃材に座って
持っていた鉄パイプを弄ぶ。

くるくると回して
倒れる前にキャッチした。


フィンクスは苛々した声で
何度か名前を聞いたが
彼はそれに答えなかった。


夜になると
このあたりは何も見えなくなる。

既にあたりは暗くなり始めていて
私は帰ろう、とフィンクスの肩を叩いた。


とにかく、礼は伝えたからな。


私達は立ち上がって
寝床へ向かおうと背を向けた。

その時、彼がやっと口を聞いた。


『        』





私達は振り返り、もう一度彼を見た。

彼は
ただ一点、空を見つめながら
睫毛を震わせた。



お前、




フィンクスは髪を風になびかせて
ただ呆然と彼を見つめていた。

生暖かい風が
腐敗臭を運んでくる。



フェイタンの顔は
夕陽に照らされて赤く燃えていた。







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