たったひとつの予防線



俺たち山賊です、とわざわざ自己紹介してくれたので、ちゃんと殺しておいた。

ちゃんと殺しておいた、というか
私はほとんど何もしていないけれど。

大方は、シャルナークが片付けた。


山賊って言うわりにさ、殆ど何も持ってないんだね。

シャルは死体をひとつひとつ確かめながら
そう呟いた。

何も持ってないから山賊なんでしょ。

財布らしきものを拾い上げるが
現金はたったの2万ジェニーだったので
なんだか急に虚しくなった。


シャルと私が2人で出掛けるのは
何年振りのことだろう。

今日はたまたまフェイ、フィン、シャル、私で組んだ仕事の打ち合わせがあったために
こうして一緒に買い出しに出ているが
普段はつるまない上に
年に何回か会ったとしても殆ど話はしない。

シャルはもういいや、と言わんばかりに
立ち上がった。


さ、帰ろう。
めぼしいものは何にもないね。


思えばあの街にいるときから
私とシャルの間にはなんとなく溝がある。
多分性格的に、そこまで気が合わないし
話すことも特にないのだ。


第一、シャルが旅団結成の時に名乗りを上げたことすら
私は驚いた記憶がある。

もともと、誰かと組んで動くような人間ではなかったのだ。
あの街にいたときから。


シャルってさ、協調性ないよね。


並んで歩きながら、私はなんとなく言ってみた。


え?そうかな。

シャルはあはは、と笑う。
その声は湿地の森の中で、異様に乾いて響いた。


俺はどちらかといえば
1匹狼なタイプかもしれないね。


夜空には天の川が確認できた。

天の川、という言葉は
最近になって知った。
特段星に興味はない。
宇宙にも助けを求めたことがないからだ。



なんで旅団に入ったの?とは聞けない。

なんでか分からないけど
それは誰にも聞いたことがない。

なんだか、聞いてはいけないことのような気がするし
私自身もそれを聞かれるのは嫌だった。


それは自分の弱みだし
強くありたいと考える私にとっては
消したい過去であり、現在であり、未来なのだ。



森を抜けて丘を登ると
本拠地が見えてきた。


私はこの街の風景が好きだ。

ところどころで民家が建ち始めているけど
まだまだ緑が多く残る、郊外の田舎町。


早く行こう。
フェイがお腹が空いたって怒り出す前に。


シャルは私の言葉に答えず
黙って先を歩いた。



シャルの考えていることって分からない。
多分、旅団の中で一番わからない。



だから団長に1番近い存在なのかもしれない、少し腑に落ちた気がした。



シャルって、よく分からないね。


うん、俺もお前が何を考えてるのか分からないよ。
だから、俺は操作したかったんだ。


私が疑問を口にする前に、
シャルは今しがた鳴った携帯を耳にあてがう。


予想通り、フェイタンが怒ってるよ。


シャルの笑顔の向こうに
天の川が浮かんでいた。






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