※トリップ

仕事を終え自宅のドアを開け、溜め息混じりに後ろ手にドアを閉めた瞬間、誰もいないはずの部屋から声がした。


「誰だ? おまえ」

『…は…え…るふぃ、くん…?』


目の前にいたのは、日本が誇る海賊漫画の主人公でした。


「おれの名前知ってんのか? どっかで会ったか?」


混乱して立ち尽くす私を、ルフィくんは小首を傾げてじっと見つめる。きょとんとした表情がたまらなくかわいい。かわいい、けど、何で、目の前に?


「あ! もしかして船乗り間違えたのか?」


アニメは飛び飛びにしか見ていないが、聞き覚えのありすぎる声が画面越しではなく目の前から聞こえる。理解が追いつかない。一体何がどうなっているのか。


『え、は、なに…どう言うこ、痛ッ!』

「うぉっ?! 悪ィ! って誰だ??!」


混乱する私の背後のドアが突然勢いよく開いて、したたかに頭を打たれた。視界にドアを開けた人物はまだ映っていないが、この、声は、間違いなく。


「ウソップ! こいつ間違えて乗り込んじまったんだ!」

「ええっ?! 海賊旗掲げてんだぞ?! 間違えるか普通?!」


ずきずきと痛む頭を押さえながら振り向けば、やはりそこにいるのはお馴染みすぎる長鼻の彼で。


『いや…もう…なに…?』


突然のことすぎて、私の脳みそは状況処理を諦めたらしかった。まさに思考回路はショート寸前。と言うか、ショートし切っている。その証拠に視界が眩み始めた。
気絶秒読みの私が最後に見たのは、天使のような無邪気な笑みを浮かべてサンジくんにご飯の催促をするルフィくんと、慌てふためくウソップくんの姿だった。


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