半ば攫うように船に乗せた女は、しかし目立った反抗をするでもなくただただ日々を過ごしていた。
肝が据わっているのか、拐かされたのを理解していないのか、すっかり打ち解けたクルーたちと楽しげに話す姿を見るたび、何とも言えない気持ちになる。まあ、その態度にこそ惹かれて連れ出したのだろうとは思うのだが。
「で、今度は何の騒ぎだ」
『? 何かありました?』
夕食の時間が訪れ、キッチンのドアを開けて数秒、頭をかかえた。
クルー全員が集えるよう広さを取ったそこは、色紙で作った輪っか、金や銀のふさふさした紐、薄い紙でできた花々でかつてないまでにメルヘンに飾り付けられている。
やや困惑した、しかし満更でもない表情のクルーたちの視線が刺さった。
「一体何がどうしたらこうなるんだ」
『何がって、だって今日はキャプテンさんのお誕生日なんでしょう?』
我がクルーをそそのかしてこんな事態を巻き起こした張本人は、しれっとした顔で手に持っていた花飾りをおれの首にかけた。
『お誕生日は賑やかに飾ってお祝いしないと』
「……」
「あの、えっと、すみませんキャプテン」
紙の花を壁に付け終えて、ペンギンが苦笑を浮かべながら女の頭に手を添えた。
女は不思議そうにペンギンを見やる。ペンギンがなぜ申し訳なげにしているのか、まるでわかっていないようだ。
「うちは海賊だし、そう言うのはやらないって言ったんですけど、まあ、その…」
「言って聞くような女だったら世話ねェよな」
「はい、見ての通りで。それに、たまにはいいんじゃないかってなりまして、こんな具合いです」
『あっ、キャプテンさん、ケーキが仕上がったみたいですよ』
「……ケーキまであるのか」
コックがおずおずと2段のケーキをテーブルに置いた。これもまた、海賊船には似つかわしくなく飾り付けられている。甘ったるい匂いに胸焼けがしそうだったが、楽しげな表情に毒気は抜かれた。
「ちょいと張り切りすぎましたかね。ケーキなんて焼くのはずいぶん久々で」
『とっても素敵なバースデーケーキですよ、コックさん。キャプテンさんもそう思うでしょう?』
「…はぁ。悪くはねェ」
「ははっ! よかったよかった!」
おれが溜め息とともにケーキの前の席に着いたのを見て、クルーたちも各々席に着いた。どこで仕入れて来たのか、手元にはクラッカーが見える。鳴らす気か。
首謀者がおれの向かいに座り、ケーキの脇から顔を出して笑った。
『ハッピーバースデー、キャプテンさん』
追うように湧き上がるハッピーバースデーの声と派手な破裂音に、口角は上がらずにはいられなかった。
「あァ、まあ、ありがとな」
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HappyBirthday Law !
2018.10.6
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