水の中で、ゆっくりと身体が沈んでいく。
なのに、不思議と息苦しさはない。
「……はやく……しなきゃ……」
頭の中に、少女の小さな声が響いた。
「……はやく……きえちゃう……」
掠れながらも届く声に、唇を開く。
途端に身体が泡に包まれて、視界は真っ白に変わった。


ゆっくりと瞼を開けたアクアは、目の前の白い天井をぼんやりと見つめる。
「…………夢……?」
そう呟くが、思い出せないのか小さく息を吐くと、上体を起こした。
真っ白いシーツから抜け出し、ベットから降りると閉じていた窓を開け放つ。
「いい天気……!」
さっきまで眠そうだった眼はしっかりと開いており、頬を撫でる風に笑みを零した。
マリンブルーの髪が揺れる。
アクアは、視界に映る自分の髪を見て、苦笑を浮かべた。
しかしすぐに窓際から離れ、身支度を始める。
彼女の身支度が終わる頃、軽いノック音が部屋に響いた。
その音を待っていた、とでもいうよりアクアはすぐに扉に向かう。
「おはようございます、アクア様」
「おはよう、リウル」
開けた先には、茶色の髪に碧色の瞳を持つ青年が立っていた。
「お誕生日おめでとうございます」
リウル、と呼ばれた青年が優しく笑って言うと、アクアは小さく頭を左右に振る。
「今は私たちだけしかいません」
拗ねたようにアクアが言うと、リウルは苦笑を零してから、左手に持っていた小さな箱を彼女の前に差し出した。
「誕生日おめでとう、アクア。ささやかだがプレゼントだ」
リウルの言葉にアクアが、彼の手の中の箱を見てから、リウルを見る。
「……開けても?」
「どうぞ」
また優しげに微笑むリウルに、アクアはそっと箱を受け取り、ゆっくりと開けた。
中には、蒼い宝石が上品についてある三日月をモチーフにしたブローチが収まっている。
アクアは早速、箱からブローチを取り出し、服に着けた。
「……どうでしょうか?」
送り主を見上げて嬉しそうに微笑む少女に、リウルも笑みを返す。
「似合っている」
その言葉にアクアはとびきりの笑顔を見せた。
「ありがとうございます、リウル」
青年は小さく礼をする。
「さ、ギアール王が待ってる。食堂へ行こう」
「はい……!」
頷いたアクアが歩き出し、リウルが部屋の扉を閉めてから、その半歩後ろを歩いた。


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