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「はぁ…」

レイナは彼氏であるジェイクの部屋で一人、何度目かわからない溜め息つくと髪を掻いた。
ジェイクの出ていったドアを見るとまた大きな溜め息が出た。

「何であんな言い方しか出来ないのよ…」

愚痴が漏れる。
他愛のないことで言い合いになり、お互いに引っ込みがつかず、喧嘩になったのだった。
ジェイクが出ていったと言っても、いつも出てすぐのところに置いてあるバイクに寄りかかり頭を冷やしているだけなのだが。

彼女が喧嘩の最中にジェイクに向かって投げたクッションを拾う。

「ジェイクのバーカ!」

クッションが当たって落ちたのだろうか、いつもはラックの上にあるレイナがジェイクの反対を圧しきり無理矢理飾った大きなテディベアも今は床で転んでいた。

「…可愛そうにね」

テディベアと自分を重ねてしまい、心がきゅっと締め付けられた。
そのテディベアも拾い、いつもの定位置に視線を送ると、その奥に見慣れない箱があることに気づいた。隠されるように置かれたその箱を手に取ると、まじまじと見つめる。
こんな所にあるわりには、そんなに埃も被っていないので不思議に思った。

私に見られたらダメなものなの……?あやしいな………浮気?

何だか開けてみるのが怖く躊躇していると、色んな考えが思い浮かびだんだん腹が立ってくる。
こうしていても、らちが明かないのでレイナは思いきって箱の蓋を開けた。

「……」

口が開いたまま、声が出ない。
箱には今までレイナがジェイクにプレゼントしたものが入っていた。
そんなに高価なものはあげた事はないのだが、ちょっしたプレゼントも含め、初めてあげた物からキチンとあった。

その中の一つ、シンプルなキャップを手に取ると、自然と笑みがこぼれた。

「ふふっ…こんなの被れるかって散々けなしてたのに」

物に執着しない彼が、レイナから貰ったという理由で大事にとっていてくれていたと思うと愛おしく感じ、喧嘩していた事が馬鹿らしくなる。

レイナはそのキャップを被ると、箱とテディベアを元通りの場所へ戻しドアへと足を進めた。


静かに玄関から出るとジェイクがバイクの向こう側で座っているのがわかり、こっそり近づく。

「……なんだよ?」

気配を察知した彼が視線は向けないまま声をかけてきた。

「ジェイク、さっきはごめんね?」
「…………いや、俺も悪か…」

バイクの影からひょっこりと顔を出した彼女に視線を向けたジェイクは謝る途中で言葉を失った。

「レイナっ!お前勝手に!」

ジェイクはキャップを取り返そうとするが、彼女にかわされたため手が宙を掻いた。

「大切にしてくれてありがとう……ジェイクのそういうところ大好き」

嬉しそうに言う彼女にジェイクは、ふん、と照れ隠しに怒ったふりをしそっぽを向く。
レイナが隣にちょこんと座るとジェイクが腰に手を回してきて、彼の方へ引き寄せられた。

「好きなら…ずっと横にいろ」

ジェイクの肩へ頭を預け、コクりと頷けば、彼の手がキャップの上から優しく撫でてくれる。

「ねえ、今度お揃いのキャップで出掛けよっか?」
「それは絶対しねーからな」

ケチ、と笑いながら呟くレイナからキャップを取ると、ジェイクは彼女の髪にキスを落とした。



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ジェイクが意外とまめなら良いな、というお話。
ジェイクとお揃いのキャップしたいな…
文句言いながらしてくれそう。
130704

一片の欠片も残さずに
title by libido


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