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1ヶ月ぶりのデートの帰り、レイナの家の前に着いた車の中で二人は無言の時間を過ごしていた。
いつもなら、デートを振り返り笑顔で話してから帰るところだが、今日は重い空気が流れていた。

もうやめよう、もう終わりにしよう

助手席に座ったレイナは今日言おうとずっと決めていたフレーズを頭の中で繰り返していた。
レオンとは付き合って今日でちょうど2年になる。彼はエージェントという仕事の都合上、会える日も限られるし、いつ命を落としてもおかしくない。
会いたいと素直に言えず、そんな我が儘は彼の負担になるだけだ。
レイナは限界だった。レオンの気持ちもわからない…彼には結局自分がいなくても大丈夫なのではないかと思えてくる。自分が彼の事を好きな分、その分今の状態が辛い。

「レオン…」

俯いた顔を上げ、彼の方へ向けるとこちらをじっと見つめてきた。
その視線に、続きが言えなくなる。
早く言って楽になってしまいたい気持ちと、言ってしまって後悔しないんだろうかという気持ちがぐるぐる回る。

「……こっち見ないでよ」

レオンの腕を軽く押して、視線を反らさせようとする。

「嫌だ」
「なんでよ、向こう向いてって言ってるじゃない」

じっと見つめてくる瞳にレイナは少し俯き気味になる。この空気と彼女の様子でレオンも気付いているだろう。彼も今日のデートではいつもより口数が少なかった。

この人は私の決意も言わせないつもりなの?
込み上げそうになる涙を堪え、彼の腕を力強く押し続けた。

「レイナ…」
「こっち見ないでってば!」
「…レイナ!」

制止するように名前を呼ばれると同時に、両手首を掴まれ、レイナは自由を奪われる。

「嫌っ…!」

彼女は顔を伏せたまま腕を自由にしようともがくが力では敵わない。

「レイナ…お願いだから拒絶しないでくれ…」

力とは正反対に弱いレオンの声に、驚きからレイナは大人しくなり無言で彼の方を見た。

「……不安にさせて悪かったよ。そんなに拒絶するほど辛いか?」

妙に落ち着いて話す彼に、ああ別れを切り出されるんだ、とわかる。

「辛いよ、私……好きでいるのが辛い」

目を見て伝えることができた。
終わってしまう…でも、これで良かったんだ。

「すまない……レイナ。辛くなるぐらい好きでいてくれてありがとう」
「…うん」

泣いちゃダメだ。自分に言い聞かせ必死に堪える。

「俺も愛してる…」
「……う、ん」

視界がボヤけてくる。
ゆっくりとレオンの顔が近づいてきてそっと唇を塞がれた。

やっぱり彼が好きなんだ、だからこそもう…。

優しいキスに胸が締め付けられた。
名残惜しそうに離れるレオンの顔が見れない。涙は既に頬を伝ってしまっていた。
手首を掴んでいた手が緩められ、今度は両手を包み込まれた。

「ずっと我慢させて悪かった……レイナ、結婚しよう」
「……えっ?」

言葉が認識できない。
潤ませた目を丸くさせたレイナにレオンは優しく微笑みかける。

「俺の仕事は危険だ…いつ命を落とすかわからない。本来は家庭は持つべきじゃないかもしれないが……レイナが俺の帰るところであってほしいんだ」
「うそ……」
「嘘じゃない…ずっと言おうと考えていたんだ。…結婚したら、もう我慢しないで全部言ってほしい。俺と…結婚してくれないか?」

まだ好きでいて良いの?愛して良いの?
待っていれば、貴方はずっと愛をくれるの?

彼女の目から、言葉の代わりに涙が次々と溢れてくる。

「レイナ……返事は?オーケーならキスしてくれ。駄目なら……ビンタして良いから」

レオンは苦笑すると、泣きじゃくってなにも言えない彼女の左手の甲へ優しく口づけた。その彼女の薬指には知らぬ間に光るものが付けられていた。

「レオ…ン」

レイナは詰まりながらやっと愛しい人の名を呼ぶと、涙の味のする唇でゆっくりと彼へ答えのキスをした。



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どうして好き同士でも不安になっちゃうんでしょうね。
レオンは素敵な演出をしてくれそう。
130630

保障できない未来を君と
title by 星屑リキュール


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