main (short story list) | ナノ



ちょうど休暇だったから、そんな理由で俺は思わぬパーティーに参加している。
空になったグラスを返してレイナの姿を探していると男と肩がぶつかった。

「おっと、悪いな」
「…!あ、いえ、こちらこそ」

その男はフランケンシュタインの仮装をしていて、クオリティーの高いメイクに言葉に詰まってしまった。
ふとレイナの笑い声が聞こえた気がしてそちらを向いた。

"楽しんでるか?"
"ええ、とっても"

おそらくそんな会話だろうと想像出来る…少し向こうでは上機嫌なレイナが友人と会話しているのが目に入った。まあ彼女が楽しそうだから良いかと思いながら、端に用意された椅子に腰掛けた。座った感触が気持ち悪くて苦い顔になる。尻の下にはフサフサした毛の塊があった。俺の尻尾だ。
レイナが小走りで俺の元へと来た。一通り友人への挨拶が済んだのだろう。

「ピアーズ、ごめんね、付き合ってもらっちゃって」
「良いですよ…レイナさんの頼みなら断われないし」

先輩の命令、という圧力のかかった誘い。このハロウィンパーティーに一緒に参加してほしいという頼みだった。
俺にとって知り合いもいないのだから、本来なら楽しくないだろう。でも俺はレイナの事がずっと気になっていたし、断われなかった。そして有ろう事か狼男の仮装と称し、耳と尻尾が付けられていた…彼女が用意したのだ、ここまでするのは惚れた弱みと言える。

「ふふ、ピアーズは従順だねー」
「やめろよ」

ガシガシと少し乱暴に頭を撫でてくるレイナの手をやんわりと払った。恥ずかしすぎる。

「ワンちゃんみたいで可愛いよ!似合ってる」
「狼だ」
「うんうん、この衣装にして正解だったね」

満足気なレイナはというと、どこぞのロリータ魔女の衣装らしく赤と白の子供っぽい服だ。到底歳上には見えない、まあいつもの事だが。

「そのスカート丈もう少し長く出来なかったんですか?」
「買ったらこのサイズだったからね、でも似合ってるでしょ?今日だけはこの美脚を拝む事を許してあげましょう!」

くるりと一回転してみせるレイナのスカートがふわりと舞う。俺座ってるんだけど…

「自画自賛は良いですけど…パンツ見えますよ」
「えっ、うそ!?」

実際はギリギリ見えなかったが、慌てて裾を抑えた彼女が可愛くて吹き出してしまう。

「さっきから俺暇なんですけど…そろそろ構ってくれます?」
「え、ちょっと!」

手をこちらに引くと慣れないヒールの高いブーツの助けもありレイナは簡単によろめき俺の肩に手をつく形で体重を預けてきた。

「お使いは終わりました?赤ずきんちゃん?」
「違うって!魔女だってば!」
「俺が狼だから食べられるために赤ずきんにしたのかと思ったのに」

自分は座ったまま離れようとするレイナの腰に両手を回し引き寄せて逃げられないようにする。頭巾なんてなく赤の衣装というだけで故事付けるのも無理があると思ったが、思ったより反応が面白くて悪乗りしてしまう。

「食べられ…って!…そんな訳ないじゃ無い!」
「じゃあ、魔法使いさん、人に恋した狼を人間にしてもらえますか?」
「えっ…」

立ち上がって彼女を見下ろすとより密着したようになる。真剣な目で見つめると、レイナは真っ赤になってびっくりした顔をしていた。
そんな彼女の顎を掬って唇を親指でなぞる。半開きの小さな口、俺の親指に真っ赤なルージュが付いた。

「魔法使い、なんだろ?」

そう言ってふっと口の端を上げ腰を抱く手に力を入れると、すっかり大人しくなったレイナは俺の服をキュッと握り小さく頷くとゆっくり目を閉じた。



---
コスプレさせたいだけです。
ピアーズは耳と尻尾付けたくて狼。ん?狼男か。
レイナはイメージ的にまどマギのまどかのコス…でも色は赤。…無理がある、ね。
151023


back



top