main (short story list) | ナノ



6日連続で病室を訪れていたレイナが今日は来なかった。
ジェイクはなんだかしっくりこないような違和感に不機嫌だった。そして今日は、そんな彼の退院の日だ。

今日退院だって言ってなかった俺も悪ィけどよ……
まとめた荷物をギプスをしていない左手だけで不器用にカバンに詰める。利き手ではないだけに時間が掛かりイライラが増していった。
わざわざレイナに退院の日を告げる程かと、告げたところでどうなるのかと、中々言い出せなかった訳だが、そんな自分に腹が立っていた。

シェリーのオフィスを訪ねる約束もあるため、もうそろそろ病院を出なければいけない。ジェイクはカバンを持って病室を後にし、通り掛かったナースセンターでレイナの病室がどこか聞いてみた。
リンゴを剥いて貰った礼もある、軽く別れの挨拶ぐらいしよう、そう自分に言い聞かせて渋々向かう。


同じ階だが、少し離れたその病室を訪ねると、ベッドに座るレイナがいた。ジェイクが無言で扉を開けたことで、そちらへと顔を向けた彼女の目には包帯が巻かれていた。

「あれ?先生忘れ物?………どうしたの?」

人の気配がし、医者が入ってきたとでも思ったのだろうか。レイナは相手が何も答えないことに、不安そうにしている。
手術後…なのか?
ジェイクはそう気づくと、苛立っていた自分はどれだけ馬鹿で、彼女に会いに来て良かったと胸が締め付けられる思いになる。レイナの手をそっと握ると、彼女はビクっと体を跳ねさせた。

「レイナ……手術、頑張ったんだな」
「…ジェイク!?どうしてここに?」
「部屋どこか聞いた。俺退院なんだ今日。だから…」

別れの言葉でも言いに…
ジェイクはお礼も言うつもりだったはずが、何だか続きの言葉が出ない。

「うん、知ってた。退院の日……」

レイナは苦笑しながら、偶然聞いちゃって、と付け加えた。

「手術の日、言えばついてやったかもしれねーのに」
「だって………ジェイクが退院しちゃうの淋しいじゃない。だから会わないようにしようと思って今日手術にしてもらったの。……なのに…どうして来ちゃうかな」

レイナが話していると唇に柔らかい何かが触れた。ジェイクは無言だったが、彼の大きな手に力がこもった気がした。

「えっ、今…」
「退院、いつだ?」

彼女の言葉を遮るようにジェイクが尋ねた。

「…包帯取れるのが明日で、3日後に退院だよ」
「また来る。褒美くれって言ってただろ…なんか買ってきてやるから楽しみにしてろ」

レイナに約束事をしておくのは、また会うため。理由なしに会いに来るなんて変だと思い、彼女が以前言っていた話を思い出して利用した。
ジェイクの手の力が緩くなり、離されるんだとわかったレイナは慌てて空いていた片手を重ねた。

「ねえ!ご褒美、何も買っていらない」
「なんだよ、自分で言っときながら可愛げねーな」
「その代わり、退院の日…もう一回今の………キス、してくれる?」

ジェイクに握られていた手がするりと離れたかと思えば、今度は頭に手を置いたような感触。

「さあ、何のことかな」

レイナはジェイクの柔らかな声から、彼が微笑んでいるんだろうと思い、自分もいつも向けていたように笑った。
今度はこの目で彼を見て、その時この気持ちを伝えたい、レイナはそう強く願いながら。



---
アンケート、好きな設定で運命的な出会い、甘いというので書いてみました。
甘いかどうかは…自分で判断できませんw
141028


back



top