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「くそっ、シェリー……俺が手使えねーのわかってねーのかよ。食いやすいように剥いてくとか、女らしい考えねーのか?」

あまり独り言を言う方ではないつもりだったが、この病室という暇な空間に閉じ込められ、ジェイクは時間を持て余していた。
シェリーが持ってきたリンゴを怪我をしていない自由の効く左手で掴むと、丸かぶりするかと諦めかけていた。
その時、バンッ!と勢い良く扉が開きビックリして思わずリンゴを落としてしまった。

「失礼します…!」
「ナースコールなんざ押してねーぞ」

大慌てで入って来た少女は明らかにナースとは違い、パジャマ姿。きっと入院患者だろう。

「違うの!30分だけ………いさせてほしくて」

彼女の足元へと転がったリンゴを手渡され、ジェイクは受け取った。
面倒は御免だ、と頭によぎる。

「他のとこ行けよ」
「ねえ、リンゴ剥いてあげる」

半ば無理やりベッドの脇にあった椅子に座り、ナイフを器用に扱い出す彼女に、不自由な身であるジェイクは溜息をついた。彼女はお構いなしだ。

「ジェイクは…怪我で入院?昨日までここ空室だったけど、今日入ったの?」

どうして名前がわかったのかと怪訝な表情のジェイクに彼女は苦笑してベッドのネームプレートを指した。

「昨日の夜中だ…」
「そっか!私、レイナ」

会話が成立したことに、パッと嬉しそうに微笑む彼女にジェイクは思わず胸が高鳴り目を逸らした。

「お前なんで他人の部屋に来たんだよ?」
「んー……検査が怖くて……だって検査終わったら、今度手術だから」
「どこが悪ィんだ?」
「目。今は大丈夫なんだけどね、早く手術しないと将来的にダメらしいの」

レイナは剥き終わったリンゴを皿に並べると、どうぞ!とジェイクに得意気に差し出した。

「意外と器用なんだな」
「意外は余計よ!食べさせて欲しい?」
「いらねーよ、左手は使える」

ジェイクが茶化したつもりが、レイナからの思わぬ仕返しを喰らい、一口かじる事で誤魔化すしかなかった。

「ジェイク、腕痛かった?手術したの?」
「どーってことねぇよ、腹も縫った。足は捻挫だけだ」

骨折してギプスをした腕を痛々しく見つめるレイナの顔が、ジェイクの発言によりさらに歪んだ。

「痛そう…」
「痛くねーって言ってんだろ、んな顔すんなよ」
「だって……」

彼女はジェイクに、強いんだね、と苦笑して言った。

「なあ、手術…逃げんなよ」
「そう、だけど……手術失敗してもし何も見えなくてなったらどうしようって思ったら怖くて」
「いつかは必要なら早くしちまえ」
「だって、ジェイクの姿も見えなくなっちゃうかもしれないんだよ!?」
「………こんなカッコ悪ィ姿、見なくていい…」

ジェイクは自身の傷だらけの姿にうんざりすると、会話の間に居心地悪くなって皿を彼女に差し出して、ほら、と顎で差す。

「くれるの?」
「俺だけ食うのも変だろ」
「じゃあ、お礼に明日も剥いてあげるね」

ふふ、と笑うレイナにくすぐったくなりジェイクはリンゴを頬ばった。

「好きにしろ」

ぶっきらぼうに言うジェイクにまた彼女はまた柔らかく笑った。



---
続きます。

2014.10.21

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