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どうして、今日という日に私は休みなんだろう。

昨日の夜からなかなか眠れなくて、そんな事をボンヤリ考えながら車を走らせていた。
夜のドライブはいつの間にか明けようとしている。

きっと隊長は、私の事気遣ってくれて、休みにしてくれたんだろうな…。

車を停めて、外に出ると一日の始まりを告げる空気は美味しかった。
ドアにもたれ掛かって遠くを見つめる。
こうしていても、隣から掛けられる言葉はない。当たり前だ、一人で来たんだから。
そう、独り…。

「あ……」

繋がれる事のない左手に視線を落としたときに、目からポタポタと涙が大きな滴となり頬を濡らして、やっと自分が泣いているんだと気づいた。

「…ピアーズ……手握ってよ」

忘れることの出来ない想いは、ずっとあの日で止まっている。
私だけ置いてきぼりで一年も経ったんだ。自分なりに、立ち直れている気がしてたけど、全然ダメだった。

遠くを…水平線から朝日が顔を出そうとしているのを眺めた。
海は広すぎる。私はもっと狭い世界で、彼しか見えてなかった。こんな私を見たら彼は笑うだろうか。悲しむだろうか。

俺の事は忘れろ。

そう言う彼を想像してしまって…自分の中の感情のぐちゃぐちゃが一層酷くなる。

忘れるなんて怖い、もっと自分が独りになってしまう気がする。
その反面、忘れることが出来たらどんなに楽だろうかとも思う。

彼との思い出、彼の笑顔、彼の仕草、彼の言葉、私を呼ぶ声。
全部永遠だと思ってた。こんな職業なんだから、覚悟はしていても、まさか自分の恋人に、ましてやこんなに早く訪れるなんて思ってもいない。
一つ一つはもう記憶でしかなくて、未来なんてないのはわかってる。

「ピアーズ……会いたいよ」
「レイナ…?」

近くに車が停まったことすら気付いていなかった私を呼ぶ声。
耳が麻痺して、ピアーズに呼ばれた気がして、慌てて振り向いた。

「あ……」
「…悪かった、一人にするべきじゃなかったな」

涙でぼやけた先に居たのは、クリス。彼の言葉も全部ピアーズに言われたい言葉で…余計に視界が滲んで言葉に詰まる。

「すまなかった…」

いろんな意味を含んでいる謝罪の言葉。誰も貴方を恨んでなんていないのに。それはピアーズも一緒だろう。

「私は…忘れるべき、ですか?」

途切れ途切れに言うのがやっとで、言い終わると悲痛な面持ちのクリスにしっかりと抱き締められた。
胸を借りて暫く泣いた。溢れる行き場のない想いは涙になって、クリスの服に染みを作る。

「忘れなくていい。……ただ、前を向けば良い。いつかピアーズに会うときに胸を張れるように」

ピアーズに……会うとき。
命なんて限りある、もちろん私にもその時は訪れる。そう、またきっと会える。そんな風に思えたら、少しだけ心が軽くなった。
不器用な隊長なりの励ましに小さく頷くと解放される。

「私、今日出勤しちゃダメですか?」

一人じゃやっぱりいろいろ考えてしまう。

「いや、残ってる仕事の事を考えて、来てもらえないか聞こうと思っていたところだ」

そんな私の意思を読んでくれたクリスはそう言いながら優しく微笑んで私の頭にその大きな手を乗せた。

「そんな事だろうと思ってました」
「ああ、レイナが居ないと困るところだった」

隊長や、BSAAの皆に支えられていた事を実感する。
涙を拭って、時計を見た。
まだ出勤にしても早すぎる。

「もう少しここに居ます」

もう大丈夫と意思表示すれば先に行っているからと、もう一度微笑まれ、私もつられて目を細めた。

気付けば太陽は眩しく照っていて、水面がキラキラと輝いていた。

また出会えるときまで…

やっぱり辛いのは変わらないし、悲しみは消えないけど、それでも時は流れる。彼の分まで生きるとか、そんな大きな事言えないけど、私が生きているのは事実なのだから。

前を向いていけるように、見守っててね…ピアーズ。



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ピアーズに愛を込めて。
140701


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