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「私、お腹に…赤ちゃんできたみたい」
「えっ!?」

出勤の用意をするクリスは自分の声のトーンの高さにさらに驚いた。
何だって!?信じられない…。毎回避妊はしてたし……それでも絶対はない、とは言え…。

「どど、ど、どうしよう」
「"どうしよう"じゃないよ、じっくり考えて……今日一日」

同じく出勤の用意をするレイナは落ち着き払っていた。


こんな波乱な一日の始まりに、クリスは悶々としながら、オフィスへと入る。

「おはよう、クリス。………どうかした?」
「ジル、……俺はどうすれば良いんだ!レイナの事は愛している、でも今の経済力じゃ…「ちょっと、落ち着きなさいよ!話聞くから」

いつもと様子の明らかに違うクリスにジルは心配したが、その数分後、気の許した仲だけに包み隠さず言ってきたクリスの話の全容が見え、彼に呆れた視線を向けていた。

「ねえ、今日何日かわかる?」
「?…4月1………っ!」
「やられたわね、クリス」

そうエイプリールフールだ。
気づいたクリスは大きな安堵と共に悔しさで一杯になった。


* * * *


「嘘つくなんて酷いじゃないか…」
「……あ、バレた?ごめんね?」

その晩、見るからに落ち込んだクリスにレイナは少し悪ふざけが過ぎたのかと反省した。

「俺がどんなに悩んだか」
「ごめんなさい、すぐ気付くかなって思ったの」
「………レイナ、別れよう」
「…………えっ、嘘…でしょ?」

真剣なクリスに焦りばかりが募っていく。
騙したのは悪かったけど、こんな事になるなんて…
険しい表情のままクリスは視線を落とした。

「これが嘘だと思うか?」
「…やだ!なんで?クリスごめんなさい!」
「……」

無言で背を向けたクリスの背にしがみつくレイナは必死だった。

「そんなに傷付くなんて思ってなくて……、クリスそんなこと言わないで…お願い!」
「…………」

それでもクリスは答えない。

「ねえ、クリス…大好きなの!」
「………… ダメだ!!耐えられない!」
「!?」

レイナの視界は急に真っ暗になった。振り返ったクリスに抱き締められていた。

「俺も大好きだっ!」
「!???」

自分の腕の中でなんとか見上げてきたレイナは困惑の表情。さらに強く抱き締めると、もごもごと何か言っている。

「別れるなんて嘘だ。……今日ついた嘘は一年本当にならないってジルに言われて…」
「そう、なの…?……別れたりしない?」

腕を緩めてやるとレイナは涙で潤んだ目を向けてきて、可愛さと罪悪感にクリスは心からの愛しい視線を送った。

「ああ」
「………ずっと一緒?」
「もちろん、愛してる…レイナ」

力強く頷くクリスの言葉にレイナは笑顔になると彼の背中に腕をまわし静かに抱き締めた。

ジルはこの結末まで予想しての助言だったのだろうと思うとクリスは彼女に対して頭が上がらないな、と小さく苦笑した。



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S.T.A.R.S安月給な訳ないけども、若いクリスは動揺してくれれば面白いなー。
クリスは毎年ジルにも騙されてそう(笑)
140401


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