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「久しぶりね」
「そうか?」
「うん、2週間ぶりかな」

俺の姿を確認したレイナは料理していた手を止め、玄関へと駆け足で来た。
飼い犬の出迎えのようだと思いながらも、挨拶のキスをすると彼女は満足そうに微笑んだ。

「契約がなかなかまとまらなくてな…」
「そう、私は変わりないわ。元気そうで良かった」

絵に書いた"妻"のような姿。
俺のことを大手会社の役員だと信じ、自分が俺に愛されていると思い込んでいる哀れな女だ。

「レイナ…久しぶりなんだ、良いだろう?」

抱き締め耳元で囁くと心地良いのか、レイナの体からは力が抜けるのがわかる。

「ええ、愛してる。アルバート」
「レイナ…」


* * *


体の相性は良い。だからたまに抱きたくなりこの家へ来ることになる。

「貴方の子供がほしい」
「そうだな、いずれは産んでもらわないとな」

適当に答えながら気だるい体に鞭打ち起こすと、レイナはまだピロートークを求めてきていたが、服装を整えた。

「ねえ、アルバート……」

返事の代わりに顔を向けると彼女はいつものように微笑んでいた。だが、空気が違う。
何なんだ……

「私を連れていってほしいの…」

面倒な女の習性が出てきたと思った。
潮時か…、馬鹿な女は自惚れが過ぎると自分の立場を忘れる。

「何処へだ?……暫く休みは取れそうにない。だから旅行は…」
「研究は?進んでる?今度はラクーンシティに行くんでしょ?」

目を見開いて彼女を見ると同時に唾を飲んだ。

「何を…言って……」
「もう良いよ、アルバート。貴方が私を愛してなくても、貴方の正体が人の道を外れていても…、そんなの別にどうだっていい。私は貴方なしじゃ生きていけないの」

距離を詰めたレイナに唇を塞がれた。
深く貪るようなその舌に、今までのレイナとのギャップでくらくらしそうになる。

「ん!…っ、ふ………」

離そうとした彼女の後頭部を手で押さえ、今度は俺が主導権を握る。
堪能した後レイナの唇を噛んでやると、紅い鮮血が滲んだ。

「馬鹿な女だと思っていたが、違ったようだな……」
「馬鹿だわ…わかってて飛び込んでいくんだもの」

唇を濡らすその血を親指で拭ってやる。
そして見せ付けるように指に付いた朱を舐め取った。

「私は、従順な女は好きだ…」

そう言うと彼女は得意の満足そうな笑みを浮かべた。
ああ、囚われたのは俺の方なのか…

140324

どうしよう、抜け出せない
title by libido


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