エース、エースと叫ぶ声が聞こえる。生きろ、諦めるな、助けてやる、たくさんの想いが交差するそこはしかし戦場であり、暖かなものではなかった。彼の命は何人の重みを持っているのか。本来散るべきではなかった命も散ってゆく。名前がこの戦争のことを知ったのは偶然であったが、まさかエースがロジャーの息子であるとは思いもしていなかった。ただの海賊には罪が重いと不審に思えば、そういうことかと目の前の惨状を見渡す。

海賊王の息子、だから何だというのか。名前にとってはそんなことはどうでもよかった。もとよりこの世界の人間ではない名前には、そもそも海賊王やらワンピースといった概念が薄い。名前にとってロジャーとはバギーを預けた際に一度だけ出会った男で、後は白ひげの元にいた頃に皆の話をちらりと聞きかじった程度だった。話としては知っていたが、そんな実在するかわからない宝や死人よりよほど、いま目の前にある命の方が価値があった。死んでしまえば全ては無に帰る。それはすべての摂理である。

本来なら、白ひげは息子を見捨てるべきだった。勝ち目の無い戦であれば。それでも助けにきたのだ、彼にとって家族とはそういったものだったのだろう。

白ひげの船は、教団とはまた違ったホームだった。教団は逃げることを許さない代わりに庇護を与えた。行き場のないものたちにとっての居場所であったが、あれは戦争だった。勝利に重きを置き、犠牲は切り捨てる。そこにはどうにもならない一線があった。

エースの姿が、今まで戦場で散っていった若いエクソシスト達と被る。彼らもまた、守られるべき子供であったはずだ。誰だって死にたくはなかろうに、歴戦の猛者でさえ死に際にたてば覚悟は揺れる。最期の最期に絶望して死んでゆく瞳を見るのも気持ちの良いことではない。

かつて世話をした道化の子供の姿が見える。かつて同じ船に乗っていた者たちが倒れてゆくのが見える。彼の弟が戦場の中を駆けてゆくのが見える。エースの瞳が迷うように揺れるのが見える。


「海賊王海賊王と…子に罪はないだろうに」


子とは庇護されるべきものだ。戦場など出るべきではないし、ましてや処刑などもってのほかだ。見下ろす戦場では命が散ってゆく。むごい事だと目を閉じ、名前は静かに己のイノセンスを発動させた。








「若ェうちからそんな諦めた目をしてたら碌な大人にならんぞ」

「うるせえもう大人だ」




140407
リクエスト:頂上決戦時の男主視点(渚様)
タイトルは輝く空に向日葵の愛を様より


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