冬空の下、ひらひらと赤が舞っていた。
木と木の間に張られた蜘蛛の巣に引っ掛かったその葉は、落ちることなくそこにあった。中くらいの蜘蛛が迷惑そうに身じろぎしている。自分の巣にあんな大きなものが引っ掛かっているのだから、当然の反応だった。


「綺麗、ねぇ」

「そうか、」


ぽつりと言えば、隣りにいる彼からは律義に反応が返ってくる。目を細めてそれを見上げているダークライにふと、小さな欲が沸く。


「ダーク、」

「何だ?」

「あの葉、とってきて」


そういえば、少しだけダークライが首をかしげる。言われた意味が今ひとつ理解できていない様だった。私自身もまたあまり理解していないのだから、そこは仕方ないとも言える。が、私の中で彼を困らせてみたいという思いは一層強くなるばかりだった。
ダークライの困った顔が見たい、と思う。あわよくば傷ついた顔も。前者はともかく、後者はさすがに私と彼の間に亀裂が入りそうなので止めておく。いや、彼だったら恐らく、傷つき続けても私のそばにいるのだろう事は簡単に予測がつく、のだけれども。


「ダーク、私の言う事、きけない?」


小首を傾げて可愛らしくオネガイする。恐らくは私なりの愛情表現だ、と思いたい。どこまでが可能なラインなのか、私は測り続けている。彼の愛情や、気持ちを。ダークは飽きも呆れもせず、毎度毎度私に付き合う。今度もまた、いつもの事かと思ったのか、いいや、と微笑んだ。


「そんなはずがないだろう、私の愛しい主」


そんな心配は無用とばかりに彼は私の頭に手を置き、ぽむりと撫でた。そして少し私をからかうかのように(それでもその瞳は真剣だった)それだけを言うと、真っ赤に染まった葉に向けて、ふわりと上がった。
そしてぼんやりとそれを眺めていた私のところに戻ってくると、手を出せ、と一言だけ言った。


「…寒い。」

「手袋をしているだろう」


あきれた様子のダークに、それもそうかとポケットにつっこんでいた手を出す。出した両手に、彼はそっととってきた葉をのせた。
ダークが持っている時までは美しいと感じた葉は、やはり唯の木の葉であった。さっきまでは綺麗だったはずのソレに、何だかなぁと一人ごちる。


「ダークが持っていて」

「それではとってきた意味がないだろう」

「綺麗だからいいの」


池の周りの鳥たちが鳴く声が聞こえた。いつの間にかいつもの散歩道を抜け、ため池の方まで来てしまっていたらしかった。寒い冬空の下、鳥たちはそんな事は全く関係ないとばかりに池の中を泳いでいる。見ているだけで寒くなってくる光景から目をそらしつつ、ダークライに向き合った。


「お前が持っていては駄目、なのか?」

「うん。それが綺麗じゃなくなった」

「言っている事がめちゃくちゃになっているぞ」

「知ってるわよ」


文句を言いつつも、私から葉を受け取ったダークライに満足げに笑うと、やれやれとばかりに頭を撫でられた。彼は私の頭をよく撫でると思う。それはもう無意識のうちに入るのかもしれない。

私もダーク頭を撫でてやろうと手を伸ばすも、あっさりとかわされてしまい、むっとして彼のスカート?の様な部分をめくってやろうとした時(ダークは必死で逃げようとしていた。気になるじゃないか)、その一瞬。


「あ」

「あーあ」


ダークライの持っていた葉が、風に奪われた。ひらひらと空の下を舞う葉は、やはり先ほどの様に美しかった。


「…すまない」

「あーまぁいいよ、綺麗だったし」


申し訳なさそうにしょぼんとしているダークライの手を握る。頭の白い部分が力なく下がってしまっている(可愛いなぁ)。そもそも彼のせいじゃないのだ。それでも、少しだけおしい事をしたかな、とは思う。葉が空に舞った時、なんだやっぱりあの葉は綺麗だったんじゃないかと思った。もう少しきちんと見ておけばよかったのかもしれない。しかし、あれはやはり、空を舞っていたからこそ美しかったのだ。


「手元にあるときはそうは思わないのに、手放した後に気づく事も多いわねぇ」

「…怒って、いる、のか?」

「まさか」


先ほどよりさらにしょんぼりしてしまったダークライに慌てる。どうやら私がまだ先ほどの事を気にしていると思ったらしい。つないでいるダークの手を、しっかりと握りなおし、一歩踏み出した。


「思い出は80%近くは美化されるものなのよ」

「…すまない主、言っている意味が、」

「綺麗だったからいいって話です」

「…そう、か」


少しだけ微笑んだダークライにそうです、と返せば、握っている手をおずおずと握り返される。私が何とはなしに蹴った石が、ぽちゃんと音を立てて池に波紋を作った。



ある晴れた日に



091126
やまだ様にテストを乗り切るだけの萌えを!
テスト頑張って下さい…やまださまのみお持ち帰り可です^^






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