「どうしたの?ガブ」 私が仕事をしているのを横で大人しく見ていたガブリアスが突然立ち上がった。どこと無く不機嫌そうなガブリアスに首を傾げる。 昼から一緒に買い物に行こうと約束をして、さっきまで嬉しそうにしていたのに。 そのままてくてくと歩いて来て、ぎゅっと自分を抱きしめてきたガブリアスの背に驚きながらも手を回し、抱きしめ返す。フカマルの頃からの甘えんぼだった事を思いだし、懐かしいなと思った。今でもこうして一緒にいてくれる事が素直に嬉しい。 きっと自分は、この大好きな相棒がいたからこそ今まで頑張ってこれたのだ。 がちゃり、と仕事部屋のドアが開いた。入ってきた人物を見て、今の状態にあぁと納得がいった。 「デンジ」 何故か私のパートナーであるガブリアスはこの町のジムリーダーであるデンジの事を毛嫌いしている。多分私とデンジが仲良くしているのを見てやきもちを焼いているだけなのだと、思う。いや、ただ単にデンジが嫌いなだけなのかもしれない。心配せずとも私の脳内の9割以上はこの頼りになるのにどこか可愛らしい相棒の事で占めているのに。 ガブ、と声をかければ彼は少し不服そうにしながらも手を離してくれた。 (おあついことで) 彼女に抱きつきながら射殺さんばかりに自分を睨み付けていたガブリアスは、彼女にガブ、と困った様な声で一声かけられただけですっと手を離した。彼女の困る様な事は決してしない彼の瞳は、主人に対する愛しさで溢れている。(まるでナイトの様だ) あながち間違ってはいないだろう。部屋に入った瞬間抱きしめあっている二人(正確には一人と一匹)には驚いたが、いつもの事なのでもう何も言う気にはなれなかった。 ガブリアスが自分を嫌っている理由は分かる。要するに、自分が彼の主人に対して抱いている好意が気に食わないのだ。 質の悪い事に、たとえ仮に(あくまでも仮に)自分が彼女と結ばれたとしても、ガブリアスと云う恋敵(?)は彼女の元を潔く去ったりなどしない。当たり前だ。彼は彼女のポケモンであり、何者にもかえがたいパートナーなのだから。(同じポケモントレーナーとしてそれは痛いほど分かっている) 方や今までずっと側にいた大切な大切な相棒、一方自分はその相棒に負けた一介のジムリーダー。思われている想いの差など歴然。(子供でも分かる) 現に彼女の思考の半分以上はガブリアスの事で埋まっている。ガブリアスに向ける優しい笑顔の半分でも俺に分けて欲しい。(いや、更にその半分でもいい) やっとの思いでこじつけた俺のポジションは只の友人、もしかしたらそれ以下かもしれない。 彼女に負けたジムリーダー、よりはマシだと理解しつつもやはり切ない。 横に座って様子を見ていたらしいレントラーが俺の手に鼻先を押しつけてきた。(どうやら慰めてくれているらしい) 目線を上げれば、どうしたの、ときかれ思わず言葉を濁す。(女々しい自分にいい加減腹が立ってきた)(そうだ、いつもの俺は一体どうしたというのだ) 拳を握りしめ、意を決して口を開いた。 愛しのあの子は (ポケモンに夢中!) ガブリアスの目が不穏に光った気がした。 090429 デンジ夢のはずだった← ×
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