私を救ってくれたのは、どこまでも優しい、彼。 雨が降っていた。あぁ、そうだ。あの時も。あの日も今日と同じ、雨が降っていたのだ。何も先の見えない、霧の様な雨が。霧払いを覚えたポケモンは生憎私の手持ちにはいない。そもそも私の手持ちは彼だけなのだ。先の見えない山道を一人黙々と進む。雨は嫌いだ。いや、嫌いだったのだろうか。彼と出会うまでは。冷たい雨は、彼が隣にいるだけで、優しい雨に変わった。 「町に、」 「なぁに?」 彼ーダークライが勝手にボールから出てきた。綺麗なライトブルーの瞳が少しだけ曇る。 「風邪をひく。町に戻ろう」 「大丈夫よ、ちゃんと傘をさしているじゃない」 それに今から戻るのなら次の町に行った方が近い、気がする。(気のせいかもしれない) 「それだけ濡れていれば、傘の意味など、ない」 「そうねぇ、じゃあいらないわね」 「そうは言っていない」 「でも貴方も傘をさしていないし濡れているじゃない」 傘をたためば、焦ったように違う、と繰り返す。ダークライの言いたい事くらいちゃんと理解している。 けれどどうしても、大好きな彼の困った様な顔が見たくて意地悪をしてみたくなるのだ。所詮好きな子ほどなんとやら、と云うやつである。細かい雨がしとしとと体を濡らす。あるようでなかった様な傘でも、少しは役にたっていたらしく、体を濡らす水滴は除々に体温を奪っていった。ひんやりと冷たくなった指先でダークライに触れれば、困った様な責めるような表情で見返される。 あぁ、彼はどこまでも優しい。 ただ少し、不器用で、口下手なだけで。 「私は雨が嫌いよ」 「、ならば何故、」 「でも、好きなの。」 「言っている意味が分からない」 「そうね」 「・・思い出したのか」 「それもあるかも」 それっきり、何を言っても無駄だと諦めたのか、ダークライは何も言わなかった。ただ私の手から傘を取り、ふわふわと浮きながら差しかけた。 (あぁでもその差し方では、貴方が濡れてしまうじゃない) あぁ、やはり彼は優しすぎるのだ。 何時の間にか雨は止んでいた (愛しくてたまらない) 090322 ×
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