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「私の愛しい子が、いたいいたいと泣くのです」


そういった彼女の瞳は、一体何を写しているのだろうか。苦々しく吐き捨てたカルムの言葉に、ダンブルドアは薄ら寒いものを感じていた。

ひどく大人びたカルムは、あまり同級生の面々とは打ち解けていないようだった。それは彼女の雰囲気がそうさせたのか、彼女自身の無関心ゆえなのかは分からなかった。子供というものはいつだって、大人以上に“違う存在”に敏感である。

顔を歪めてそう言ったカルムは、他の事などどうでもいいとばかりに息を吐いた。
彼女自身は否定しているが、天候を変え、ハリーたちを悪夢の中に陥れるなどあの場にいた誰もができることではない。真っ先にカルムに疑いの目がかけられるのも仕方のないことだった。
事情を知る者は少ないが、知っている側のダンブルドアにはカルムが無実とは断言できない。そして発せられた言葉。

恐るべきことだ、とダンブルドアは呟いた。彼女のベクトルは友人よりも己の式神たちの方に圧倒的に片寄っている。事実、飛行訓練の時にはハリーだけでなく、仲が良い(と、教師たちは見ていた)ドラコにまで容赦なく攻撃した。
あの二人がいつ、カルムの逆鱗に触れたのかはわからない。
ハリーは友ではないという。それはドラコですら怪しい。彼女の“愛しい彼ら”を脅かすと知れば今回のように何の迷いもなく切り捨てるのだろう。
それはもしかしたら、彼女の意思が“彼ら”によって徐々に侵食されつつある事を示さないか。

痛い痛いと叫ぶ、彼女に仕えているであろうナニカ。問題は、その式神達がそれぞれで意志を持っている事だった。それは最終的に彼女自身の意思までも持っていってしまう事を示してはいないか。 その感情が彼女の感情と同化してはいないか。
己の使役したモノ達に呑まれてしまう魔法使いは多い。虎視眈々と狙うモノ達に、決して隙を見せてはならない。


「彼らの行動は、君の支配下にあるのかね?」

「あの子達はあの子達の意思で私について来てくれているんです。支配という言葉とは少し違いますよ。それに信頼がなければ彼らとて私の言う事なんて聞いてやくれませんし」

「……ならば、もし彼らが暴走した時、君は彼らを止めることは」

「暴走が何を指しているのかは分かりかねますが、それは最悪の状況でしょう。そうならない様に力を尽くすのが私の役目です。」


それに、とカルムが続けた言葉に、ダンブルドアは息を呑む。


「そこまで怒らせるようなことをしでかした方が悪い。怒ってくれたというその気持ちを私は尊重しますので、あの子達に危険がない限りはまぁ特に止めはしませんが」


意思を持ち、カルムの為だけに動くモノたちを、彼女は支配していないという。しかしそれは幼い幻想だろうとダンブルドアは断言できた。
何と引換えに眷属となっているのかまではわからないが、なんの見返りもなしにああいったモノが人に従うことは有り得ない。何か彼女の知らぬところで契約は結ばれてしまったのだろう。それがカルムの才能であったのか、あるいは彼女自身も被害者なのか。
はからずも大きな力を持ってしまった小さな子供は、今までぬくぬくと生きてきたであろう周りの子供達とは相容れないのは当たり前のことなのかもしれない。

願わくばこれからの道が茨の道でないことを。しかしそれはきっと非常に難しい事だ。今の時代、状況、全てはその小さな背中には重過ぎた。
報告によれば、騒ぐ子供達の中でカルムだけは箒での安定した飛行を見せたという。才能とは恐ろしく、そしてかくも皮肉なものだ。
暗い目をしたカルムは、何かを思い出したのか少し怯えたように拳を握っている。それを感じ取ったのであろう影がざわりと揺れた。

いくら大人びていようとも、もともと子供は感情の波が大きい。もしカルムの持つ暗い記憶がフラッシュバックしたとき、かの式神たちは大人しくしているのだろうか。取り乱した主の感情にあてられやしないだろうか。それともその隙に乗じて彼女を支配しようとするのだろうか。


「もし、己の命と彼らのどちらかを選ばなければならないときが来たら、どうするのかね?」

「…もしそんな状況になったら、どちらを選ぼうとどのみち私は死にますよ。だから、彼らの信頼を私は絶対に裏切らないし、何があろうとも見捨てる気もありません。彼らが私に居場所をくれた。そして私が彼らの居場所なんです。そう簡単に選べるものでもないでしょう」


庇護によってもたらされる安心を、己の式神によってしか与えられなかった子供は、なんの疑いもなく彼らを信じきっている。もしも裏切られた時、それがわかったとき、その絶望とはいかばかりか。



140307
主人公はシロナさん思い出してブルってるだけ。
ダンブルドアは使役に歪みが出来てきていると考えた模様。主人公にとってはポケ達のフリーダムさはいつも通りなので気にするほどのことでもない。そしてそんなたいそうな事でもない。



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