▼ゾル家は大体がブラコン



ゾルディック家の人々は意外と友好的で家族思いなのである。
そしてそろって人の話を全く聞かない。

「イル」

「何?」

「重いんですけど」

後ろから抱きしめてそのままもたれかかってきたイルミに仕事の邪魔、と言えば後でしたらいいじゃん、と言われた。(この我儘っ子め)

・・もう諦めた方がいいんじゃないかと目の前のパソコンを見て思う。
イルミの相手をしてとっとと帰ってもらい、今晩寝ずに仕上げた方が確実に効率が良い、気がする。

「どうしたの」

猫の様だと思った。ゾル家の息子達は父であるシルバの血か、その様な雰囲気の者が多い。
しかしそんな事より、久々に会った恋人には申し訳ないが早々に帰って貰わないと私の仕事的にも色々と不味いので、さくさくと話を進める事にした。

「キルが出ていった」

ぎゅっと抱きしめる力を強くし、私の肩に顔をうずめているイルミの頭をよしよしと撫でる手が思わず止まる。

「何かキルが嫌がる様な事した?」

普段のイルミの弟達に対する理不尽な言動の数々が頭を掠めたがあえて無視する事にした。

「分かんない」

本気で疑問に思っているらしいイルミに苦笑する。

「暗殺者にはなりたくないって」

「まぁ人には向き不向きがあるからねぇ」

「でもキルは才能があるんだよ。俺なんかよりずっと」

「・・イル」

イルミは感情表現が苦手なだけで(苦手がどうとか云う次元の話かどうかは知らないが)結構寂しがり屋で甘えたがりなのである。誰も信じようとはしないが。(そして自他共に認めるブラコンだ)

分かんない、と私の肩に顔を額を押しつけたまま呟くイルミに、一枚の紙切れを手渡した。

「何?」

「キルアの居場所。次のハンター試験受けるみたいだよ」

「いつの間に調べたの?」

「・・企業秘密。」

ふぅん、と紙を受け取るイルミ。
実を言えば、昨晩シルバがうちに来たのだ。(しかも何の連絡もなしに)
ただキルアの居場所を調べて欲しいと言われたので首を傾げつつも調べたのだ。

私の今日の仕事が終わらなさそうなのもこの辺りが原因である。
理由も言わず人の家で勝手にお茶を飲んでくつろいでいるシルバを追い出す事もできず、調べた情報を渡そうとすれば彼はこの事は内密に、とだけ言って莫大な金額の書かれた小切手を置いて帰って行った。

私の仕事を邪魔しに来ただけなのかとも思ったがイルミの様子を見てまぁとりあえず納得がいった。なんとも家族思いなお人である。(その代わり人の都合など全くこれっぽっちも考えてはくれないが)


じっとキルアの居場所が書かれた紙を見ているイルミを見る。
何かあったのだろうかと思ってはいたのだがまさか家出とは。(ゾル家始まって以来じゃないのだらろうか)
子供のほほえましい行動に思わず笑みが漏れるが、本人と家族達にとっては大問題なのだ。
しょぼんとしているイルミを見るうちに、仕事はまた今度にしようかと思えてきた。


私も大概イルミに甘い




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