▼ああ、ほんとうに救われない




「アズラエルは、兄貴を生かせたいのか?」
「まあ、優秀だもんなぁ」
「一緒に死なせてはくれないんじゃねーの?」

弟三人で話し合った。多分、アズラエルは名前を生かすだろう。ギリギリのところで命を繋ぐ兄に、アズラエルが何を思っているのかは分からない。

「つーか、アレさぁ」
「いや、どうだろうな」

ここ最近艦内を飛ぶ噂にクロトが顔を歪めた。名前はアズラエルに身体を売っているだの、アズラエルが父親かもしれないだのと。いつまでたっても死なない名前に。生きているだけでそんな事を言われるほど、名前の状態は酷かった。しかしそれを耳にするたび、弟たちは首を傾げていた。

「普通親が子供をあんな施設にゃ送らねーだろ」
「だよなぁ」
「精子提供か?」
「それ子供としては愛情わかなくね」

「身体の関係持つにはなぁ・・・」
「この戦況でそんな暇ねーよなぁ」
「少なくとも俺達の兄貴になってからはねーよな」


結局親なんていたこともない自分たちには分からない。命の重みすらないとされる自分達の身体に、果たしてそんな劣情を抱くのか?人の考えることは分からない、と話は堂々巡りを繰り返していた。しかしアズラエルの執着に関して言えばわからなくもない。
しかしもしそうだとしたら、生き残るチャンスがある。身体どうこうは兄の個人的な事情として置いておくとしても、自分たち3人に出来る事といえば敵を殺して殺して殺して、戦争が終わるまでも時間稼ぎをすることだけだ。どうせこの戦争だってそう長くはない。こんな生体CPUに頼っている時点で負け戦だ。長くはなくとも、終わりを見届けられるかどうかとはまた別だが、それはそれ、戦争の大局というやつだ。
戦争が終わっても名前を生かしてもらえるかどうか、名前の身体がもつのかは分からないが、戦争終結まで生き残った個体ならば他の個体よりは優遇してもらえるだろう。きっと。
それが名前にとって良いことかどうかはその時になってみないと分からないが、自分たちにだって希望だとか、戦うためのモチベーションだとか、そういったものは必要だ。

「守るための戦いってやつ?」
「うわシャニあったまいいこと言うじゃん」
「明確な目標は大切だな」

欲を言うなら、どうか俺達の最後の瞬間は忘れないでくれるといい。無理ならまぁ、その時はそれで良い。そんなことは言っても仕方のないことだ。








目の前で散ってゆく命に、どうかこの光景だけは忘れてくれるなと、役に立たない脳に願った。

最期の通信なんてあいつらの叫び声しか聞こえなかった。最期まで、戦って散れたことは「俺達」にとっては幸せなのか。兄より先に散るなんて、順番すら守れない、守る気もない良い子とは言い難い弟達。出撃前に叩いた軽口。なぁ、生きろよ。俺の口癖を真似て笑う弟達。誰に向かって言っているんだと笑った。いざとなれば使えと渡した薬には手をつけることすらせず。自分の代わりに何度も出撃していた弟達。そんな様子すら見せなかった癖に。なんでもない顔をして、弟達はとっくの昔に覚悟を決めていた。彼等なりの生き方に。

あぁ、生き残ってしまった。弟たちの命を喰らって。
戦争は、まだ、終わる兆しを見せない。




2018/10/07
おわり。


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