▼夢一重




※顔に火傷をおった孫兵と彼を飼ってる主人公の話
※男主で卒業後設定



忍術学園を卒業して何年たったか。当時の同級たちの噂を耳にしながら、忍びの道には進まなかった俺は家業の薬種商を継いでいた。やれ誰が死んだの、誰がどごぞの城に召抱えられたの、商いをやっていれば耳に入ることも多い。忍術学園の卒業生である俺が店を継いでいるということで、取引先にはいくつかそういった関連の相手もいる。忍びの道に進まなかったからと言って、あの学園の卒業生である限り完全に忍びであることを辞めることは難しい。入る情報は貴重であり、それを目的にやってくる者もいる。

「あーあー、全くもったいない事しやがる」
「僕は別に気にしないよ」
「そうかい」

忍術学園では、そりゃあ派手にやっている同級たちもいたが俺は地味な部類で、友人もそこそこいはしたがそれでも本当に仲が良いやつといえば片手で数えられるほどだった。そのうちの一人が、今目の前で俺に包帯を替えられている伊賀崎孫兵である。地味な俺がなんでこんな美形と仲が良いのかといえばお互い毒関連で意気投合したからとしか言えない。孫兵は毒虫を愛していたし、俺は実家が実家だっただけに当時から薬には詳しかった。それはもちろん、毒薬も含めて。

孫兵の顔の半分は、今は包帯に覆われていた。ある日なんの連絡もなしに店先に転がり込んできたこいつは死にかけで、顔を含めた上半身に酷い火傷をおっていた。それから一月、孫兵は俺の部屋で飼われている。飼うという表現が正しいのかどうかは分からないが、意識を取り戻したこいつが一言、ねぇ名前、僕を飼ってよ、と、そういった。俺はそれに頷いた。だからきっとこれで正しい。

「なぁ孫、最近街で流れている噂を知ってるか?」
「知らないよ」
「物好きな薬種商の旦那が新しく飼ったイヌはえらくお綺麗だという話だ」
「…趣味が悪いね」
「そうだな」

そう言って興味なさげに真っ白な包帯を眺める孫兵に、俺も頷く。
あの噂もあながち間違ってはいない。



140327
タイトルは314様から


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