9/28





『誕生日までの3日間、3つの疑問』
2日目(9/28)




恋が成就したらめでたしめでたし。
おとぎばなしはいつもそこで終わる。
お姫様と王子様が手を取り合ってハッピーエンド。

さてそこでふたつめの疑問。
「好き」がぶつかり合った先には何があるの?
つきあうって、どうやるの?



私と黒羽くんが、つつつつつ付き合い始めて、2日目。
今日は日曜日。私達は動物園に来ていた。デデデデデデート、です。初めての。
動物園に行かないか、って言ってくれたのは黒羽くん。私はびっくりした。

「動物園に行きたかった事、どうして知ってるの?」

黒羽くんは真っ赤になって目を逸らしながら答えてくれた。

「…前に、友達と話してるとこ聞いたから。悪い、盗み聞きみてーで。俺ストーカーっぱいよな…」

可愛過ぎて爆発しそうになった。
動物園ではもっと爆発しそうだった。だって黒羽くんが、黒羽くんが……ええと、『萌え』ってこういう気持ちを表す言葉だと思うの、絶対そう。
寝てばっかりのパンダを見て「丸い、こいつめっちゃ丸い」って大ウケする黒羽くん。
ゾウのベストビューポイントを本気で探す黒羽くん。
虎を見て「虎次郎」っていう名前の佐伯くんの話をする黒羽くん(仲がいい事は知ってたけど、幼馴染みだって事は初めて聞いた)。
『夜の洞窟ゾーン』でコウモリやヤマネコに目を輝かせる黒羽くん。
「コイツ、いいガンしてやがる」とハシビロコウと見つめ合う黒羽くん……等々。
私も動物好きだけど黒羽くんも相当だ。私は途中からもう動物よりも黒羽くんウォッチに夢中になってしまった。くるくる変わる表情と笑顔が眩し過ぎて。
その笑顔が、自分に向けられているなんて。

「動物園って小学校の遠足以来だったけど、楽しいな!」

園内のレストランで『パンダプレート』を前にニシシと笑う黒羽くんに、私も頷いた。

「うん、楽しい」
「ほんとか? 秋山、俺に気を使って言ってねえ? 俺だけ楽しんじまってねーか?」
「え…」

ああ、この気遣いだ。
黒羽くんの大好きなところ。

「本当に、すごく楽しいよ。動物も可愛いし、黒羽くんと一緒にいられてすごく楽しい。今日はありがとう」

心から言った。

「お、おう!」

黒羽くんは、ボワッ!て音がしそうなくらい赤くなってパンダプレートをかきこんだ。おかしくて笑ってしまった。



初めての、デデデデデデートは本当に、とてもとても楽しかった。
だけど、私はほとんど何も話せなかった気がする。足元もふわふわ覚束なかった。
変な事を言ったら黒羽くんに嫌われちゃうんじゃないか、幻滅されちゃうんじゃないかって思ったら何を言ったらいいのか分からなくなってしまって、言葉が喉に引っかかってしまうのだ。ただのクラスメイトだった昨日までならちゃんと話せていたのに、焼きイモの話で盛り上がったりもできたのに。今は意識しすぎて逆にぎこちなくなっちゃってる。
そんな私に黒羽くんはたくさん話しかけてくれて、会話が途切れないようにずっと楽しませてくれた。黒羽くん、疲れたんじゃないかな。つまらない暗い女だって思われなかっただろうか。
せっかく好きになってくれたのに、彼女になれたのに。こんなんじゃ黒羽くんに飽きられてしまう。
もっとちゃんと彼女らしくならなくちゃ。がんばらなくちゃ。

でも彼女って何をするものなの? 彼女らしいってどういう事?

私にはまるで分からなかった。経験もない。まさか自分が「黒羽くんの彼女」になれるなんて妄想だってした事ない、恐れ多くて夢見た事すらなかった。
動物園で見たカップルの姿を思い出してみる。手を繋いでいたり寄り添って歩いていたり…みんな素敵にカップルに見えた。私たちはちゃんとカップルに見えただろうか。自信ない。

──お弁当を作ってみようかな。

ふと思いついた。
彼女の手作り弁当。すごくベタだ。でも私にはそれくらいしか思いつかない。動物園でもお弁当を広げているカップルがたくさんいた。
お弁当を渡した時、お弁当箱を開けた時、黒羽くんはどんな顔をするだろう。
喜んでくれるだろうか。喜んでくれる、気がする。
黒羽くんは食べる事が好きだ。いつもたくさん食べている。
黒羽くんが笑うと、私の中にぽわっと火が灯るみたいにあったかくなる。
彼の特別になれてよかった。まだ夢みたい。私は全然自信がないから、彼の特別で居続けられる為に努力をしなくちゃ。ちゃんと彼女らしく。

明日、頑張って早起きしてお弁当を作って行こう。
その思いつきは私をうれしくさせた。恋愛のエネルギーってすごいなあ。


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