お題 | ナノ


いつだってあなたは想像以上の幸せをくれる



「あ」

隣を歩いていたサエと、手が軽くぶつかったのは多分偶然じゃない。
本当はもっとずっと側に行きたいっていう私の願望が、いつもの距離より数センチサエとの間を詰めていたんだと思う。

「ごめん」

指が触れただけなのに熱くて私はつい目を逸らした。サエの顔をちゃんと見られない。

付き合いだしてからもう1か月になるのに、私たちは手も繋げない。
幼馴染みの関係から抜け出せない臆病な自分が嫌で、ちょっと泣きたくなった。

付き合いだす前の方が、もっと、自然に手なんか繋いでたのに。

「ごめんね」

私は軽く謝って手を引っ込めようとして……できなかった。サエに止められた。指だけじゃない、てのひら全部、サエの手に包まれてた。

熱い。

びっくりしてサエを見たら、サエはすごく真剣な顔で私を見ていた。顔が真っ赤だった。

「──ごめん」

「え」

真っ赤な顔で、真剣な目で、急に謝られて意味が分からなかった。

「なんで謝るの…?」

「そっちこそ」

「私は、手、ぶつけちゃったから」

「ぶつけたのは俺。…ずっと手を繋ぎたかったんだ。でもタイミング掴めなくて」

「……え、」

「手、引っ込めないで。寂しいじゃん」

顔を真っ赤にしながら拗ねたように言うサエは、全然、私の知ってる幼馴染みの男の子じゃなかった。繋がれたままの手も、付き合いだす前とは全然違った。
ちゃんと、恋人の、手の繋ぎ方だった。

「……うわあ」

熱い。繋いだ手も顔も全部。
サエも真っ赤だけど、多分私の方がずっと赤い。

サエは、自分が今どんなに私をしあわせにしたか、きっと知らない。

知らないままじゃ駄目だ。ちゃんと付き合ってるんだから私たちは。
恥ずかしくても、自分の気持ち、知っておいてもらいたい。サエが勇気を出してそうしてくれたみたいに。私もサエをしあわせにできたらうれしいから。

「サエ、…あのね」

私だってずっと手を繋ぎたいって思ってたんだよ。

言ったら、サエは大きな目をまんまるくさせて、それから真っ赤な顔でほにゃりと崩れるように笑った。



Title by ロストガーデン

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