つまるところはこのキスが答えです
呆れるほど鮮やかな手腕で奪われた初めてのキスは、今まで私が恋だと信じ込んでいた幼い感情を根底から突き崩すような熱を孕んでいて。
一瞬で色々分かってしまった。
無害な幼馴染みの顔をして、「俺にしとけば」なんて冗談めかして言ったりしながらずっと私の側にいてくれたサエが、実はこんなに凶暴に私を求めていた事、とか。
好きな男の子の「タイプ」なんて括りで考えてるうちは本当の恋なんかじゃなかったんだ、とか。
世界が一瞬で色を変えたみたい。
「……なんで泣くのかな」
凄く近く、息がかかるくらい近くでサエが笑う。
苦笑いじゃなければいいと思った。
今謝られたら死ぬ。
「俺、謝らないよ」
私の心を見透かしたかのようなタイミングでサエがさらりと言って、私は死ぬほど安堵した。情けない事に。
「君が気まずい思いをしないように、ずっと本気じゃない振りをしてあげてたのに。煽ったのは君だ」
分かってる。
や、分かってなかった。全然全くこれっぽっちも分かってなかった無神経女だった、けど!
今のキスで全部分かったから!
ごめんなさいと言いたいけれど、サエがそんなの望んでない事も凄くわかったから、私はとにかくこくこく頷いた。
「……当たり前みたいに、いつでも、いれくれた、から」
「…うん」
うまく話せなかったけど、サエは瞳をやわらかくして聞いてくれて、私はまた安心して言葉を続けることが出来た。
「気付かなかった。でも、サエがいなくなったら私死ぬ。今分かった」
「…死ぬは大袈裟なんじゃないかなあ」
「大袈裟じゃない。彼氏…さっきまでの元彼氏と別れても私は死なない。サエがいてくれるから。でもサエがいなくなったら死ぬ。死ぬから」
「うん」
それじゃあ、もう一度キスしてもいい?
泣きそうに顔を歪めて、今まで聞いた事ない低く掠れた声でサエが言うから。
何それ、さっきまであんなに余裕だったくせにって可笑しくなって。
返事の代わりに、噛みつくみたいにキスをした。