プリンセスサマーウェイブ
同じクラスのナナちゃんは、ふわふわカールしたかわいい髪をしています。ママといっしょのびよういんで、パーマをかけてもらっているんだって。それからとなりのクラスのスバルくんは、髪の毛に金茶色のメッシュを入れています。おしゃれでかっこいいの。パパとおそろいなんだって。
いいなあ、かわいいな。かっこいいな。わたしがそう言ったら、二人して「さくらちゃんはいいよ!」って言うからびっくりしました。
「さくらちゃんは、なんにもしなくてもさらっさらのきれいな髪じゃない。さくらちゃんの方がうらやましいよ」
「そうだよ。さくらの髪はそめたりしなくても最初から金に近い茶色だし。だっしょくしてんのかと思ってたよ」
「……あ、ありがとう?」
パパゆずりのまっすぐで茶色い髪の毛は、わたしにとってはあたりまえのことで。ほめてもらうようなことなのかどうか、わかんないけれど。二人はまじめだったから、お礼を言いました。
うううーん。
ナナちゃんはうらやましいって言ってくれた、この髪。さらさら、まっすぐすぎて、ほとんどブラシもかけてません。夜洗いっぱなしでねても朝にはクセひとつついてないから、そのまんまで学校に行けるし、たしかにラクはラクです。
でもね、さくらも女の子なので。ナナちゃんみたいなふわふわの髪がたにあこがれる気持ち、あるんです。
ナナちゃんだけじゃなくて、学校の女の子たちはみんなかわいくリボンやゴムで結んだり、かっこよくピンをさしてたり。いつも手の込んだかわいい髪の毛をしていて。なんにもしないでほっといてるのは、気がつけばわたしくらいかもしれません。……きゅうにそのことに気づいて、うーん、って思っちゃいました。
ふわふわカールはむりでも、かわいく結ぶくらいならできるかな。そう思ったけれど、わたしの髪って、さらさらすぎてうまく結べないんです。すぐにしゅるんとゴムがぬけちゃうの。がーん。
「うー、つまんない」
鏡の中、今もまっすぐ落ちるだけの髪の毛をにらんでわたしがつぶやくと、話をきいてくれていたダビデくんは大きなため息をつきました。
「さくら、それは贅沢!」
「えっ、ぜいたく?」
「そうだ。贅沢過ぎる。何もしなくてもさらさらで綺麗なのが悩みなんて、世の天パで苦しんでいる人間たちにケンカを売る発言だぞ」
「ええ〜?」
そんなつもりはないんだけど…。
ちらりとダビデくんを見上げると、いつになくむうっとした顔で鏡をのぞきこんでいました。
わたしの部屋の小さなドレッサーは、去年のわたしのたんじょうびにダビデくんが作ってくれたものです。「ベルサイユのばら(りょうくんに借りて読みました、ちょうおもしろかった!)に出てくるみたいなのがいい!」ってリクエストしたら「ロ、ロココ…」って引きつっていたダビデくんだけど、本当にゆめみたいにすてきなのを作ってくれました。わたしの部屋に合うようにミニサイズでかわいいのです。おかげでわたしの部屋は女の子らしくなったけれど、わたし自身が女の子らしくないんじゃなあ…。ダビデくんに、ちょっともうしわけない気持ち。
わたしと並んで、少しきゅうくつそうに鏡におさまる横顔をじっと見上げます。すごくきれい。ダビデくんはきれいです。あだ名のとおり、せっこうの像みたいに。パパとはぜんぜんちがうしゅるいのイケメンです。きれいなおでこにかかる、くるりとゆうがなカーブをえがいたつややかな髪の毛。ダビデくんこそベルばらに出てきそう。
「ダビデくん、いいな…。髪の毛、くるくるで」
ダビデくんのきれいな髪を指にまきつけたら、くるん、とからんではねました。かわいいな。ダビデくんはびっくりした目でわたしを見たけど、なぜかそのままのしせいでカチンと固まってしまいました。
「ダビデくんの髪もきれい。わたしだいすき」
「う。あ。さくら…」
固まったままのダビデくんの髪の毛をくるんくるん、指にからめてあそんじゃいました。すべすべしたきれいな赤茶の髪。指のあいだを通るかんしょくがくすぐったくて気持ちいいです。くふふ、って笑ったらダビデくんがこまった顔をしました。なんでかな。
今夜はダビデくん、うちに泊まってくれます! うれしい! で、明日の日曜日はわたしといっしょに、しょくぶつえんと海にあそびに行ってくれます。すごくすごくうれしい!
お店があるからパパとふじくんがいっしょに行けないのはさびしいけれど、ダビデくんと二人のおでかけもだいすきだからたのしみ。ダビデくんのガタガタいう古い軽トラで海ぞいのこくどうを走るのが、わたしはだいすきなんです。ダビデくんの軽トラはエアコンがこわれてるから、窓を開けて、しおかぜがびゅんびゅん入って来るのもすき。
「明日早いからもうねよっか、ダビデくん」
「あ、ああ。そうだな、さくらは寝る時間だ」
「『さくらは』? …ダビデくんまだねないの」
「俺はもうちょっと起きてる。サエさんと不二さんと話もしたいし」
「ふうん。…つまんなーい。ダビデくんといっしょにねられると思ったのに」
ほっぺたふくらませたら、ダビデくんにそのほっぺたをつつかれました。ぷしゅ、って息が抜けて笑っちゃう。
「さくらが寝るまではここにいるから」
くふふ、くすぐったくてまた笑っちゃいました。だったらわたしもずっと起きていようかなあ、そしたらダビデくんがずっといてくれる──なんて悪い子なことを考えたけれど、ベッドに入ってダビデくんに布団をぽんぽんってされたら、まほうにかかったみたいにすぐにねちゃったのでした。…ダビデくん、パパからさくらをねむらせるまほうを教わってるにちがいありません!
* * *
ダビデくんだいすき、などとふにゃふにゃ言いながら、さくらが天使みたいな顔ですうすう寝てしまった後で、俺は大きく溜め息をついた。
天使。リアル天使がいる、ここに。寝顔も天使だが起きてる時は更に天使だからやばい。しかも。
「ダービデっ。さくら、寝た?」
「…………サエさんいつから見てたの」
「嫌だなあ。今来たところだよ」
そっと部屋の扉を開けて、隙間からくすくすと笑うサエさん。俺の先輩。その笑顔はさくらと全く一緒。天使その2の登場である。三十路の男がそんなにキラキラしてていいと思っているのか問いたいが、そんな命知らずな事は出来ない。…俺は昔からサエさんの笑顔には弱くて、逆らえた試しがないのだ。当然、その笑顔をまんま受け継いださくらにも。
「不二がお茶淹れてくれたから。おいで」
優しい笑顔。この人の前では俺は、一生「後輩」だ。
うぃ、と頷いて立ち上がると、またくすりと笑われた。……敵わないし、敵わなくていい、と思う。
「あー、パーマかあ。かけてる子いるよね、そう言えば」
階下、静かな夜のカフェで、カウンターの明かりだけつけて。不二さんが淹れてくれた紅茶を飲みながらさくらとの会話を話せば、サエさんと不二さんが揃ってうんうんと頷いた。
「染めてる子も普通にいるしね。ピアスしてる子もいるよね」
不二さんの言葉にぎょっとしてサエさんを見る俺。サエさんは「いるねー。最初見た時はびっくりしたよ」とのほほんと笑っていた。
「サ、サエさん! さくらがピアスしたいとか言っても駄目だよ! 開けさせないでね!」
「えっ?」
俺の剣幕に、サエさんは一瞬きょとんとして、それからぷっと吹き出した。同じく不二さんも笑っている。俺は真剣なのに!
「うーん、そうだなあ。今はまだピアスは禁止かな、さすがに」
「『今は』!?」
「まあもう少し大きくなって、さくらがしたいって言ったら俺が止める事じゃないような気もするし」
「駄目駄目! サエさん、それ呑気過ぎ!」
「あっはは」
あっはは、じゃない。爽やかに笑うサエさんの、左の耳朶を摘んでやった。ぷに、と柔らかい。
今は全く痕が残ってないけど、ここに穴を開けてピアス刺してた時期があるのを俺は知っている。高校生の時、一時期だけ。当時付き合ってた彼女とお揃いのやつ。驚く俺と剣太郎に、当時のサエさんは「頼まれちゃって」とのほほんと笑っていた。「頼まれたから」彼女にピアッサーでブスリとやらせたのだと、あっさり。本人はのほほんとしていたが、明るい茶色の髪が揺れるたび耳元でピアスがきらりと光るのは、ちょっとやばいくらいの色気を醸し出していた。この人アブねえー!と(知ってたが)心から思った。しかもチャラく見えないのがサエさんのサエさんたる所以だった。
結局、サエさんのピアス生活は数か月後、彼女との別れと共に終わり、それから彼がピアスをする事はなかったのだが。もともと彼女のお願いでつけていただけで、本人は大した執着もなかったらしい。
……危ない、と思う。
人に頼まれれば割とあっさりなんでもしてあげちゃうサエさんと、さくらはよく似ているのだ。
「こらダビデ、くすぐったいよ」
「サエさん! さくらが将来、男にピアスプレゼントされても開けさせちゃ駄目だからね!?」
「はあ?」
なんか、さくらって「せっかく貰ったから」等という理由であっさり自分の耳に穴を開けそうな気がする。そういうところ、しっかりしてるようでいて意外とふわふわしてる気がする。サエさんに似て。サエさんに似て!(大事な事なので二度言いました。何故サエさんの元奥さんに似なかったのだ…と思う)
「何言ってるんだお前は。だったらダビデがプレゼントしなきゃ済む話だろう」
「俺の話じゃなくて!」
じゃあ誰の話?と本気で首を傾げるサエさん。全くこの人は…!
カウンターの中で体を二つに折って声も出さずに、しかし息も絶え絶えに笑い転げていた不二さん(この人も大概だよな…)がひいひい言いながら、「無駄だよ、ダビちゃん」と声を絞り出した。
「佐伯にそういう話は駄目。通じないから。大丈夫、さくらちゃんに悪い虫がつかないように、僕が見張っててあげるから。まあ、ある程度までは」
「不二さん…。ある程度まではって」
「さくらちゃんも佐伯の子だからねえ、見張るにも限度があるよね。後はダビちゃんが頑張らないと。それも、相当」
「…………」
「不二まで何の話してんの?」
相変わらずきょとんとして、大きな目をぱちぱちさせているサエさん。綺麗に澄んだ茶色の目だ。何でも見透かすような、なのに何でも許してくれそうな優しい色の目。この目に溺れた人間を何人も見てきた。
厄介な事に、さくらも同じ目をしているのだ。俺は嘆息した。嗚呼、近い将来が怖い。
「でも…そっか。髪型、かあ」
サエさんが紅茶をひとくち啜って、ふう、と溜め息をついた。カモミールの甘い匂い。
「まさかとは思うけど佐伯。さくらちゃんにパーマかけさせようとか思ってないよね? 駄目だよ、子どもには薬剤が強すぎるんだから」
不二さんの指摘に俺もうんうんと頷く。サエさんは苦笑した。
「ちがうよ不二。そうじゃなくてさ…。確かにさくらの友達の女の子達、みんな可愛くしてるなって思って」
「ああ、その事。今時の若いお母さんって手先器用だよね」
「そうなんだよ。どうやったらあんな複雑な結い方が出来るのか、俺にはさっぱり分からなくて」
「……ああ分かった。佐伯、君、また変な方向に考え過ぎてるね。自分が不甲斐ないせいでさくらちゃんに可愛い髪型をさせられなくて可哀想だとかなんとか」
「えっ」と驚く俺の隣で、サエさんは「うっ」と分かりやすく凹んだ。
俺は吃驚した。変なところに気を回し過ぎて無駄に落ち込むサエさんにも、目敏く気付く不二さんの鋭さにも。
「サエさんその落ち込み、無駄!」
「無駄って言うな」
「だって無駄だし」
真顔で答える俺に、サエさんはまた「うっ」と分かりやすく凹む。あたたかい湯気が立ち上るカップに、前髪が入りそうなくらい頭を落とすサエさん。馬鹿だなあ、この人。
俺は手を伸ばして、紅茶にくっつきそうになっているサエさんの前髪を掬い上げた。さらり、さらさら。
「──さくらの髪とおんなじ」
「え」
「サエさん、子どもの頃、俺がサエさんのサラサラヘアーがどんだけ羨ましかったか分かる? 分かんないよねー、サエさんは」
「え。だってダビデ、かっこいいじゃん、その髪。綺麗だし」
これだよ。本気でまっすぐ人を褒める、そのタラシ気質。俺は不二さんと目を合わせて肩を竦めた。
「ほら、サエさんは何にも分かってない! このウネウネと広がる天パーのせいで俺がどれだけ苦労したか…毎朝ワックスするのにどれだけ時間かかるか。梅雨時なんて地獄だよ。なのに学校に行くと、サラッサラの髪の毛のサエさんが『参ったなー、今日寝坊しちゃってさー』とか寝ぐせ一つついてない頭で爽やかに笑ってるんだもん、恨んだね!」
「う、恨まれていたとは知らなかったな…」
「でしょ。所詮サラツヤストレート族には天パ族の苦しみなんて分からないんだ…!」
紅茶をぐいっと飲み干した俺に、不二さんがそっと俺の好物のクッキーを差し出してくれた。ありがとう、不二さん。でも不二さんも所詮はサラツヤストレート族なんだよな。サエさんと並ぶとサラッサラコンビだ。しかもキラキラ光り輝く系のイケメンコンビ。もういやだこのおっさん達。
コホン、と不二さんが咳払いを一つして、「そう言えば佐伯」と不自然に会話を逸らした。
「パーマは無理でもさ、三つ編みパーマって知ってる?」
「三つ編みパーマ?」
「そうそう。濡れた髪を三つ編みにしてね、乾いてから解くとウェーブが出来てるやつ。あれならさくらちゃんにも出来るんじゃないかな」
「不二、何でそんなの知ってんの?」
「ふふふ」
不二さんは意味深に笑っている。一方サエさんは、口元に手をやり「三つ編みか…」と考え込んだ。真剣に考えてる様子だ。
「よりしっかり跡をつけるなら、編み込みもやった方がいいかもね」
「編み込み…編み込みかあ。俺、三つ編みなら昔よくやったから得意だけど、編み込みは出来るか自信ないなあ」
「昔よくやったって……いつの彼女にやってあげてたの」
「はあ? じゃなくて、中学の時さ、亮に」
「え? 木更津くん?」
「そう。試合前で落ち着かない時とか、あいつの長い髪を編むと不思議と落ち着くからよくやらせてもらってた。な、ダビデ?」
「うぃ。よくやってた」
頷く。懐かしい。「お前じゃなきゃ駄目なんだ!」と亮くんに縋りつくサエさんと、「ふ、仕方ないね。存分に三つ編むがいいさ」と笑う亮くん。剣太郎もよくやらせてもらってたっけ。……という話をすると、不二さんは微妙な笑顔を深くした。
「君たちらしいね」
褒められているのだろうか。
「よし、決めた! 明日はさくらに三つ編みパーマをやってやろう!」
「えっ、明日?」
「ふふ。さすが佐伯。唐突だね」
「ははっ、ありがとう」
俺と不二さんのツッコミにめげるようなサエさんではない。そもそもサエさんに普通のツッコミやイヤミは通用しない。変なところで落ち込むくせに、変なところでやけに図太いのがサエさんという人だ。サエさんはキラキラした目で俺を見つめてきた。
「そうと決まったら練習だ! 不二、編み込み教えてくれ!」
「えっ練習? …ってまさかサエさん……」
「そのまさかみたいだね、ダビちゃん」
サエさんは、俺を練習台にする気満々だった。頬が引き攣ったが、俺に断るというルートは存在しない。染みついた悲しい体育会系の性。
不二さんが「ご愁傷様」とクッキーを更にくれた。優しい…のか?
* * *
おはようございます、さくらです。ぴっかぴかの、朝です!
わたしはとても気持ちよく起きたのに、「おはよう、さくら」と笑ってくれたダビデくんは、少しつかれたような顔をしていました。
「ダビデくん…? だいじょうぶ? もしつかれてるなら、今日のお出かけ、やめにしても」
「いやいやいや大丈夫ださくら! 俺は元気だ! 全然平気だ!」
「そ、そう?」
「俺も楽しみにしてたんだ。カピバラ見に行こう、な、さくら」
「う、うん」
今日行くよていのしょくぶつえんにはなぜかカピパラさんがたくさんいて、わたしとダビデくんはカピパラさんのむれをじーっとながめるのがだいすきなのでした。
「さくらさくら、ちょっとおいで」
パパが笑顔で、せんめんじょの方から手まねきしてます。
「なあにパパ。もう顔はあらったよー」
「偉いね。でもそうじゃなくて」
「?」
「はい、座って。お姫様」
とてとてと近付いてくと、イスにすわらされました。髪の毛、ぬれたタオルでしめらされてびっくりしました。うっすらミントのかおり。
「パパなにしてるのー?」
「可愛くしてあげるから。ちょっとおとなしくしてて」
「かわいく…?」
あたまにハテナをうかべるわたし。パパはくすっと笑って、わたしの耳もとでこっそりささやきました。
「デートなんだろう? 今日」
「…!」
パパがまほうみたいにしあげてくれた髪の毛は、ふわふわ、なみなみのウェーブ。すごくかわいくて、ほうっとため息ついちゃいました。今日着るつもりだったうごきやすいポロワンピ、とっておきのレースのスカートにへんこうしちゃったくらい。だって、髪がたににあうお洋服にしたかったから!
「さくら! すごい、可愛い」
ダビデくんが目をみはってくれたことにうれしくなって、
「さくらちゃん可愛いね。お姫様みたいだ」
カメラを構えるふじくんにえへへって笑って、
「うん、いい出来。さすが俺」
うでを組んでうんうんうなずくパパに、ちょっとだけあきれて、でも、
「パパありがとう! だいすき!」
って、飛びついた、朝。
今日はさいこうの日曜日になるって思いました。
パパがいたらいつだってさいこうの毎日だけど、そのなかでもとくべつな日に。うれしいな。今日、パパはいっしょに行けなくても、くるくるの髪の毛をさわればいつでもいっしょにいてくれるみたいな、そんな気持ち。
──けっかとして。
カピバラさんをたーっぷりたんのうして、しょくぶつえんから海にいどうするころには、わたしの髪はあっさり、いつものまっすぐにもどっていました。早すぎでしょ。
「けいじょうきおくごうきんみたい…」
ダビデくんの軽トラのじょしゅせき(わたしせんようジュニアシートつき)で、髪の毛をつまんでぶーたれるわたしに、うんてんせきのダビデくんはぷっとふきだして笑いました。
「さすが、筋金入りのサラツヤストレート族は違うな」
「さらつやすとれーとぞく…?」
「さくら」
ダビデくんがわたしの髪の毛をするりとなでました。ダビデくんのごつごつした指のあいだを、すぐにすべり落ちちゃう髪の毛。もっとからまっていたいのにな、ってなんでか思いました。
「さくら。さっきまでもすごく可愛かったけど、俺はやっぱり、この方が好きだな」
「え」
「いつものさくらが好きだ。真っ直ぐで。大好きだ」
「え」
前を見ながら笑うダビデくん(うんてん中だから、です)の横顔を見上げて、髪の毛のことを言われてるのに、なんだかちがうことを言われてるような気がして、わたしはあわてて窓の外に目を向けました。
窓の外はまぶしい青。いっぱいに広がる海と空。ほっぺたをひやすしおかぜ。
いつのまにか、もう、夏です。
←