いっしょにごはん | ナノ


はじめまして!


こんにちはっ!

わたしの名前はさえきさくら。小学1年生です。



パパの名前はさえきこじろう。32才です。
世界一かっこいい、やさしいすてきなパパです。



ママはいません。
わたしが小さい頃にお空の星になってしまいました。
だけどパパは今でもずっとママを愛しているんです。

…なんちゃって。

うそです。ごめんなさい。
物語の本みたいにつくってみました。ちょっとドラマチックかと思って。

ほんとのところはちがいます。
パパとママは単に「わかげのいたり」でできちゃった結婚したすえに、「かちかんのそうい」で1年ちょっとでおわかれし、シングルになっただけなんですって。
パパにちゃんと聞きました。

赤ちゃんの時にわかれてからママとはぜんぜん会っていなくて、なにもおぼえていないけど、パパに頼めばいつでも写真を見せてくれるし、お話してくれます。
写真で見るママはすごくきれいなひと。わたしにはあんまりにてません。
ミスR大(パパとママのしゅっしんこう)ですって。頭もいいそうです。
すごいハイスペックな人だなーと思うけど、なんか、わかる。

パパは今も女の人にもてるけど、学生時代はもっともっと、ものすごーくもててたんだってけんたろうくんに聞きました。
あ、けんたろうくんというのはパパの「こうはい」です。

さえきは天然たらしだからね、ってふじくんは言います。
ふじくんというのはパパのおともだちで、今いっしょに住んでいる人です。

きっとね、モテモテでキラキラで天然たらしの若いパパに、ミスR大のママはぞっこんひとめぼれだったんです。
それでね、結婚したはいいけどあんまり完璧すぎてつかみどころのないパパに不安になっちゃったんですねー。
…って、これはだれかに聞いた話じゃなくてわたしのそうぞうだけど、かなりいい線いってると思います。ふじくんに話したら声も出さずに笑いころげていましたが。


ほんとは、ママは今、元気でバリバリ大かつやく中だそうです。

それはとてもステキなこと。
物語の本みたいに、お空の星になってかがやいてるよりうれしいことです。
ぜんぜんドラマチックじゃないけれど。

パパとママはべつにケンカわかれしたわけじゃないから、さくらが会いたいならいつでも会わせてあげるよ、ってパパは言うけれど、今のところは会いたいと思ったことはありません。写真と、パパのお話だけでじゅうぶん。
パパにえんりょとかしてませんよ。
今は毎日いろんなことがあって、たくさんのだいすきな人がいて、たのしくて、ママに会いたいとか思う「すき」がないだけです。
いつかお姉さんになったら、パパに言えないなやみができて、ママと会いたくなったりするのかも。
そのときのおたのしみに、とっておくんです。



わたしは今、パパの故郷に住んでいます。
六角の海のそば。だいすき!

海から少しだけ登った高台で、パパはコーヒーと紅茶の小さなお店をやっています。
このお店の名前が笑っちゃうんです。

『SAE CAFE』っていうの。

サエカフェって!
パパは超かっこいい外見のわりにちょっと残念なセンスの持ち主だけど、これはない。これはないよパパ。

でもね、パパのめいよのためにせつめいしておきますね。

ママと別れたパパは、おつとめしていた会社をやめて、赤ちゃんのわたしを連れてこの街にもどってきて、だいすきな海が見えるこの場所でお店をはじめました。
ボロボロの、崩れる寸前みたいな空き店舗で、コーヒーとか、カキ氷とか、気ままなかんじでやっていたらしいです。

…ママとおわかれしたことで、パパはパパなりに結構落ち込んでいたそうで、ごいんきょさんみたいに、ひっそりやりたかったんだって。

でも、わたしにだってわかります。
パパがひっそりと隠れてられるわけがない。
パパは根っからのアイドルさんなんです。いるだけでキラキラしちゃうんです。たとえ本人が落ち込んでても。

大学から街を出てたさえきくんが帰ってきた!って、小さな街です、あっという間に広まっちゃいます。

ボロボロの屋台みたいなパパのお店には毎日たくさんのお客さんがやってきて、落ち込んでてもパパは相変わらずの笑顔でやさしくて(天然たらしで!)、そのお店はボロボロなくせにキラキラしてるへんてこりんなお店になってしまいましたとさ。ちゃんちゃん。

見かねて、パパのむかしからのおともだちや「こうはい」がたくさん手伝ってくれて、みんなで時間をかけてボロボロのお店を修理してきれいにしてくれました。

パパにはおともだちがたくさんいるんです。
みんなすっごくいいひとです。だいすきです!

なかでもダビデくんは、大工さんみたいに、いろんなことを器用にやってくれます。
みんなのおかげでお店は建て直したようにきれいになりました。
屋根の張り替えまでしてくれて、2階の部分にパパと私が住めるようにまでしてくれました。


そうして、今の、かわいいお店ができたんです。


そのお話は聞くたびにうれしくなるから、パパやみんなにおねがいしてなんども聞いちゃう。


で、お店の名前です。

パパはそれまでなんとなく名前もつけずにやっていたのですが、せっかくきれいになったんだからかっこいい名前をつけようって、(パパを抜かした)みんなでもりあがっていたそうです。
海のそばだから「SEA」が入ったらどうか、なんて話してるうちに、ダビデくんが無言で立ち上がり出て行って、帰ってきたときには『SAE CAFE』ってかっこよく書いてあるオシャレな手作りの看板を持っていたそうです。

「サエさんのカフェだから、サエカフェ。……ぶっ」

…SEA→SAE?
ダジャレにもなってないっ!ってダビデくんは怒られたらしいけど、なぜだか、なんとなく、そのまま、お店の名前は『SAE CAFE』ということになって、ずるずると今まで続く…というのが名前のゆらい。

だから名付け親はパパじゃなくてダビデくんです。

パパは、さっきも言いましたけど、その超かっこいい外見とはうらはらにちょっと残念なセンスの持ち主でもあり、そしてあんまりものごとを気にしない人なので、「ははっ、いいんじゃない?」なんてさわやかに笑って受け入れています。
電話に出るとき、「はい、サエカフェです」とか平気で言ってるんだけど…はずかしくないんだろうなあ…パパだもんなぁ…。



パパがコーヒーをすきだから、『SAE CAFE』はコーヒーのお店としてはじまりました。
それとなぜかカキ氷とか、ひやしあめとか、その時々でパパの気がむいたものがメニューにならびます。


 
ふじくんが『SAE CAFE』にきたのは、わたしが幼稚園にはいる前の年。

とつぜんやってきたこのかっこいいお兄さんは、まず看板を見て笑いころげ、カウンターの中に立つパパを見て笑いころげ…とにかくよく笑うひとでした。
 
ふじくんのお仕事は、プロの写真家さんです。

すごくきれいな、こわいくらいきれいな風景の写真が以前からお店に飾ってあって、その写真を撮ったひとだよってパパに紹介されてびっくりしました。
こんなにこわいきれいな写真を撮るひとは、もっとつめたい顔をしてると勝手にそうぞうしていたから。

でもふじくんは、きれいだけどやさしくて、あったかいかんじのひとでした。
笑い方とか、少しパパに似ていました。

「ひさしぶり、さくらちゃん。前会ったときはかわいい赤ちゃんだったけど、ちょっと見ないうちにすっかりステキなお姉さんになったんだね」

なんてせりふをすらすらと言いながら、赤ちゃんにするみたいに頭をなでてくるところも…パパに似てます。

ふじくんは何日かうちに泊まって、ぶらぶらと海の写真を撮ったりして過ごしていましたが、なぜか、いつのまにか、うちに住むことになっていました。

当たり前にカウンターの中でパパとふたりで立ってたりして。
いみがわからない!
でも、あの笑顔で微笑まれると、なぞのせっとくりょくがあります。

それにわたしもふじくんがだいすきになっていたから、いっしょにいられることになってすごくうれしかったです。

ふじくんは紅茶をいれるのがとてもじょうずで、ふじくんがきてから、『SAE CAFE』はコーヒーと紅茶のお店になりました。





わたしは毎朝、ぴかぴかのランドセルを背負って、お店のじゅんびをするパパとふじくんに「いってきます」を言って元気に学校へ通っています。

3時で学校がおわって、走って帰ってくると、パパとふじくんがカウンターの向こうから「おかえり」って笑ってくれて。
わたしは「ただいま」って言うんです。
それから、パパがわたしのためだけにつくってくれるスペシャルなココアを飲みながら、今日学校であったことを聞いてもらうの。


それが、わたしのまいにちです。


さえきさくらは、こんなかんきょうで、たのしくくらしています。

これからよろしくおねがいします!






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