内緒の話





夏祭り、お盆の迎え火、お月見、ハロウィンパーティ、そして仲間の誕生会。
名目はどうあれ、みんなで集まってわいわいがやがや、結局は「手作りの料理を爆食する日」になるのだが、とにかくイベントを大切にする人たちだなあというのが花音の印象だった。
事あるごとに、または何もなくても、とにかく集まっては大騒ぎしながら料理して食べる。食べまくる。食べ散らかすだけでなく、食材の調達から(まさに生産するところから)後片付け、会場となるオジイの家の家事まで全員でやっていくところには感心する。
誕生日などはそれぞれの家庭でも家族でのお祝いがあるだろうに、日をずらしてまで仲間内でもしっかりお祝いをする。たまたま、親が自営業や共働きで忙しい家庭の子供が多い面子だったことも関係しているのかもしれないが。
そんな彼らなので、もちろんクリスマスに何もない訳がないと花音は思っていた。思ってはいたけれど。



「で、今年の剣太郎の欲しいものを聞き出せた奴はいるか?」
「どうせ『可愛い彼女』でしょ。クスクス」
「だよなぁ…」
「あいつは幼稚園の頃からまじ歪みねえな」

いつものメンバーから葵と天根を抜いた六年生組が、炬燵を囲んで真剣な表情で額を突き合わせる光景に、花音はぱちぱちと瞬きをした。

「…え。なんで剣ちゃんの欲しいもの?」

つい先日、葵の誕生会という名の闇鍋パーティを行ったばかりだった。肝心の鍋は若干悲惨なことになってしまったが(誰とは言わないが心からの親切心でウニを投入した者がいたので)、葵のリクエストで特大ハンバーグをみんなで作ったし、樹と花音で巨大なケーキも作って、葵は大いに喜んでくれた。

「なんでって…」

亮が「さも当然だろ?」という目で花音を見遣る。

「クリスマスは子どもの夢だろ」

クスクスと笑いながら淳が続けて、黒羽、佐伯、樹、首藤も真面目そのものの顔で頷いた。

「ダビデの欲しいものは…」
「あいつはあれだ、アポロ」
「アポロかよ! 安っ!」
「だってあいつの欲しいものっつったらそれじゃん。さすがに苺チョコパフェスーパーなんとかは靴下に入れるわけにいかねーしさあ」
「それを言ったら『可愛い彼女』なんてもっと入らないよね」

…さすがに花音にも分かってきた。
彼らは、年下の友人二人にクリスマスのプレゼントをあげる相談をしているのだ。
しかもプレゼントは靴下に入れるらしい。

「…あの」
「なに? 花音」

にこりとこちらを向いた佐伯に、花音は恐る恐る訊いてみた。

「もしかして、それ毎年やってるの?」

佐伯は「うん」と苦笑しながら頷き、黒羽が渋面を作って「だってよ」と口を開いた。

「仕方ねーじゃん。あいつら、サンタ信じてんだからよ」
「え…」
「毎年毎年、今年で終わりかって思うんだけどよー、いつまでたってもあいつらがサンタの正体に気付きやしねーから! やめらんなくなっちまってんだよなー」
「…そ、そうなんだ…」
「! もしかして花音」

あはは…と笑う花音に、佐伯が突然はっとした顔を向けた。鋭く真剣な目で見つめられて花音はびくりとする。

「なっ、なにっ?」
「花音。もしかして……花音もサンタ信じてた?」
「は!?」

佐伯の言葉に、その場の全員が「しまった!」という顔をして花音を見た。

「か、花音! 今の話は忘れろ! いいな!」
「ったくバネがバカなこと言うから…。花音、サンタさんはいるよ、大丈夫大丈夫」
「バネはいつも口が軽いんだよね。気にしちゃ駄目だよ花音」
「そうそう、俺たちめっちゃ信じてっから! な!」

黒羽、亮、淳、首藤が慌てて取り繕い、佐伯と樹は真剣に心配そうな目で花音を見つめてくる。全員が「子どもの夢を壊したらいけない!」という表情だ。
花音は引き攣った笑みを浮かべ、ぎこちなく首を振った。

「…ううん、ほんと、気にしないで。ていうかあの、私、小さい頃から『サンタさんは子どもを早く寝かせて自分たちがいちゃいちゃするために大人が創作した都合のいい虚像で、絵本や物語の中の登場人物だから現実に家に来ることはないの。だって私のところに来たことないもの』ってママに言い聞かされてたから…だからその、大丈夫。心配してくれてありがとね」

みんなを安心させるように笑うと、今度はまた違う沈黙がその場を支配した。

「…………」
「…………あのさぁ、それって」
「言うな亮! かわいそうだろ!」
「…でもさぁ」
「花音、かわいそうなのね。サンタさんを信じたことがないなんて…!」
「あのな花音、人にはそれぞれ考え方があるが、俺はサンタさん信じてたっていいと思うぞ!」
「そうだ、今年はきっと花音のところにもサンタさんが来てくれるよ」

口々に慰められて、花音は「あはははは」と乾いた笑いを浮かべた。
真剣に自分を思ってくれる彼らの気持ちはとてもありがたいし愛しいけれど。
…男の子って、ちょっと馬鹿みたいだなあ、と正直思ってしまってもいた。

「そうだ! でっかい靴下用意してさあ、中にサエが入ればいいんじゃん? 花音へのプレゼント」

いいこと思いついたぞ!という顔で亮が手を打って言い放ち、佐伯と花音は仲良くお茶をブーッと噴き出した。

「ああ、いいね。花音の欲しいものってどうせサエでしょ。じゃあ丁度いいじゃん。僕たちも厄介払いできるしさ」

淳がクスクス笑って同意し、佐伯はむせながら「厄介払いってなんだよ」と突っ込んだ。

「あー、まあそれでもいいか。リボンつけてな」
「でもそしたら剣太郎がリア充への呪いで沈んじゃうのね。かわいそうなのね」
「あー…」
「あっじゃあさ、剣太郎への靴下の中に花音を入れればいいよ。一日限定の可愛い彼女って事で」
「……それ、剣太郎可哀想すぎね?」
「クリスマスに血の雨が降るな」
「そうそう、それに花音じゃ剣太郎の好みじゃねーじゃん。あいつの好みって可愛い子じゃん。こんな…ゲフンゲフン、世界中でサエにしかもてないかんじの彼女じゃちょっと…」
「首藤、ごまかせてねーぞー」
「まあ言ってることはもっともだけどね。クスクス」
「ああ! わかった! じゃあサエを女装させて剣太郎へのプレゼントにすりゃいんじゃね!?」
「!」
「!」
「! それだ!」

「…それだ、じゃないよ」

勝手に盛り上がる面々に、佐伯が力なく突っ込みを入れる。
花音は無言で首藤に向かって蜜柑を投げつけた。

「げひゃっ!」
「…おお、クリティカルヒット」


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