「今日はどのような感じにしましょうか?」
訊かれて初めて、何も考えてなかった事に気付いた。
「あ…」
どうしよう。
「…その、ばっさり切りたくて。さっぱりしたいっていうか」
今までの自分を捨てたくて。とにかく目に着いたこの美容室に駆け込んだ。
まるでモデルみたいなイケメンの美容師さんは「失恋ですか?」なんてバレバレであろう理由は聞かずに
「いいですね。今も素敵ですけど、思い切って生まれ変わっちゃいましょうか!」
って鏡越しに明るく笑った。
私も思わずつられて
「お願いします」
って笑ってしまう。
「あ、いいですね、その笑顔」
彼の鋏が私の髪をひと房をさくりと切ったとき、長くて苦しかった恋がやっと終わったのを感じた。