虎次郎の家の洗面所には私の歯ブラシがあるしお風呂場には私用のシャンプーまである。
今更照れたりしない付き合いの長さなのに、台所に私専用のマグカップがある、その事だけはいつまで経っても妙に慣れなくてどきどきする。変なの。
甘い匂いが立ち込める台所で虎次郎がココアを作ってる。小鍋でお湯に溶いた粉を練るところから始める本格的なやり方で。
「なんでそんなに警戒されてるのかな」
「別に警戒してない」
「嘘、肩が強張ってるよ」
「……」
くすくす笑いながら
「はい、どうぞ」
と差し出されたカップ。甘い甘い香り。
「まあ仕方ないか、俺がココアを作るのは甘い雰囲気を作りたい時だから」
ね?って笑う顔もキスも、とろけそうに甘かった。