佐伯観察日記・おまけ






「小森観察日記」


2月某日。
今年のバレンタインデーも小森はチョコをくれなかった。それどころかチョコの山に苦戦する俺をおもしろいものでも見るような顔で見ていた。見世物じゃないんだけどな。…いい加減、誰にでも「ありがとう」と全てのチョコをもらうのは辞めた方がいいのかなと思う。好きな女の子にも気付いてもらえないようじゃ。
小森は女の子同士でチョコの交換をしていた。友チョコというらしい。手作りっぽかった。欲しいなあと思ってじっと見ていたら、どういう訳か紙袋をくれた。友チョコを持ってくるのに使ったらしいその紙袋は…当然カラだった。泣ける。
放課後、樹っちゃんから友チョコをもらった。美味かった。小森の手作りチョコなんて樹っちゃんの足元にも及ばないに違いない!と自分を慰める。



某日。
小森は花粉症らしい。真っ赤な顔で目を潤ませて、ぐしゅぐしゅと洟をかむ姿が可愛い。微熱もあるらしくぼうっとしている様子がまた殺人的に可愛い。お持ち帰りしたくなる。ぼうっとし過ぎて体育の授業で頭でバレーボールを受けていた。ヘッドパスとはなかなかやる。鈍くさくて可愛い。



某日。
卒業が近いせいか告白ラッシュなのが困る。今日も小森に告白しようとしていた男子を捕まえて、小森がいかにだらしなくボケボケしていて鈍くさくトロくさく女子としてはかなり残念なレベルにいる子だという事を遠まわしに伝えて告白を諦めさせる事に成功した。ふう、やれやれ。
へとへとになって授業開始ぎりぎりで教室に戻ると、小森が何の屈託もないのほほんとした可愛い笑顔で「佐伯、また告白されたの?もてるねえ」と言ってきた。可愛い…可愛いけど…俺は深く溜め息を吐いた。やっぱり小森はボケボケで鈍くさくてトロくさくて残念な女の子だ。可愛いけどね。



某日。
高校の合格発表。
俺はある受験番号を必死で探していた。まずは補欠合格者から…………番号が、ない。やっぱり駄目だったか…と肩を落としていると、「佐伯!」と小森が明るい声で俺を呼ぶのが聞こえた。

「佐伯!私、受かってた!」
「えっ嘘。受験番号間違ってない?」
「殴るぞてめえ」
「殴ってもいいけどね。え、本当に?」

「うん!」と笑う小森。掲示板の彼女の指差す方向を見ると、確かに探していた番号があった。補欠合格じゃない、普通の合格者として。

「すごいじゃないか。おめでとう小森!」
「えへへ。ありがとう。あ、佐伯は」
「俺の番号はまだ確認してないけど受かってるから問題ないよ」
「殴るぞてめえ」

小森がなぜこんなにも彼女の学力とかけ離れた学校を志望したのかは分からないけれど(多分制服が可愛いからとかそういう理由だと思う)、彼女がずっと苦手な勉強を必死で頑張ってきたのはよく知っている。心からおめでとうと思った。
それに4月からも一緒にいられると思うと素直に嬉しい。
小森の事が好きだ。こんな観察日記を付けてしまうほどに。彼女の緊張感ゼロのへらへらとした可愛い笑顔を見ると全身の力が抜け…じゃない、リラックスできる。春からも小森の鈍くさくトロい可愛い仕草をみて和むことが出来るのかと思うと、新生活が俄然楽しみになった。





「…………………………佐伯キモイ」
「ええっ、ひどいなあ。お互い様じゃないか」

私は佐伯の書いた「小森観察日記」を今すぐ燃やしたい衝動に駆られた。
何がお互い様だよ、私の方が全然まともじゃん!佐伯、私の事かっ…可愛いとかすっ…好きとか書いてはいるけどそれ以上にけなしまくってるじゃん!ちょっと泣きそうなんだけど何これいじめ?

「好きな子ほど苛めたいって心理かなあ」

ははっと爽やかに笑う佐伯。むかつく…。むかつくけど、それ以上に腹立たしいのはその手を拒めない私自身だ。
だって好きだから。ずっと好きだったから。

「あ、そうだ小森。第2ボタンだけは死守したんだ。もらってくれる?」
「………………………………………………………………………………いる」


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