Dearest





(未来、夫婦設定。子どもがいます。)






12月24日と25日のあいだの、真夜中。

「……寝てるか?」
「……うん。寝てる、みたい」

私と春風くんは、息を潜めてこども部屋のドアから中の様子を窺っていた。
二人の幼い息子が間違いなく寝ている事を確かめると、二人でそうっと部屋に忍び込む。
枕元にプレゼントを置いてくるだけなのにものすごーく緊張する。春風くんが落ちていたおもちゃを踏んでしまった。

「イテッ」
「!」
「! やべ…っ」

思わず二人で抱き合ってしまった。

「……」
「……」

数秒固まったままでいたけど、だいじょうぶ、ちいさなふたつの寝息は乱れないままだ。
私たちはそうっと目を合わせて、入って来たときと同じように静かに──今度はおもちゃを踏まないように細心の注意を払って──部屋を出た。
音を立てないようにドアを閉めて、階段を下りてリビングへ戻る。明るいリビングに足を踏み入れた途端に力が抜けた。

「あああーっ緊張したあーっ!」
「わり、俺声出しちまって」
「起きなかったから大丈夫。今年も成功だよ。それより足、大丈夫? 怪我しなかった?」
「ブロックかなんか踏んだだけだからなんともねーよ」
「あれ痛いんだよねえ。ちゃんと片付けるように言ってるのにーもう!」

明日叱らなきゃ!と怒る私を春風くんがまあまあと宥める。

「せっかくのクリスマスの朝に怒んなくてもいいだろ? 俺がガキの頃なんかもっとだらしなかったぜ。あいつらきちんとしてる方だよ。桜がしっかりしてくれてるおかげだな」
「……あまいんだから」

子どもにも、私にも。
相変わらずだなあ。
でも春風くんにそう言われるといつまでも怒ってられない私も相変わらずだ。私たちいいバランスなのかもしれないな。

「はー、なんだか疲れちゃったね」
「そうだな」

顔を見合わせて笑い合う。
結婚して子どもが生まれてからは、クリスマスは子どものためのイベントだ。
春風くんとロマンチックなクリスマスを過ごしたのなんて結婚前の数回しかない。それも今では遠い思い出だ。

「俺はこういうのも楽しくて好きだけどさ、桜は大変だよな。メシつくって、ケーキ用意して」
「そうだよおー。昔春風くんが連れてってくれたおしゃれなフレンチレストランが懐かしいよー」
「はは、サエに教わった店な。でも俺はあそこよか今日桜がつくってくれたメシの方が美味いと思うけどなー」
「そんなわけないでしょうが」

でも笑ってしまった。春風くんってほんと私にあまい。

本当は私、全然大変だなんて思ってない。料理もケーキも、子どもたちと春風くんがすごく喜んでうまいうまいってたくさん食べてくれるから。その顔を思い浮かべたら何時間もかけて仕込みをするのも全然苦じゃない。すごく楽しい。
パパが帰ってきたらびっくりするかなあ?なんて言いながら子どもたちと一緒にツリーの飾り付けするのも楽しかった。期待通り、春風くんは帰って来るなり「すっげえなー!」って笑って子どもたちを両手に抱っこしてぐるぐる振り回して大喜びさせて、それから私をぎゅってしてくれた。

「お疲れ様、サンタさん」

あたためたミルクとビスケットを出しながら春風くんにキスをする。

「お皿とコップは片付けないでね、そのままにしておくの。サンタさんがここで一休みしていったんだって子どもたちが喜ぶから」
「すげえ、凝ってんだな」
「幼稚園でそういうの聞いてくるみたいなんだよねえ」
「へー」

春風くんは律儀にミルクとビスケットを食べ終え、「よし、じゃあ寝るか」と立ち上がった。

「そうだよね、明日も仕事だもんねー」

子どもたちはもう冬休みだけど、大人にはクリスマスは平日だ。
うーん、本当に結婚しちゃうとクリスマスって子どものためのイベントだよなあ…。

「私も明日ツリー片付けないとなあ」
「せっかくきれいに飾ったのにな。なんか残念な気がするな」

そう言ってもらえるだけで飾って良かったなーって思えちゃうけどね。

「桜」

え?って振り返る間もなく、ツリーの横で抱きしめられた。

「ありがとな。俺、すっげー幸せだわ」
「春風くん…」

わあ。すごい。
今のでぜんぶが報われた。春風くんパワーすごい。

「…私やっぱり春風くんに恋してるんだ、今でも」

報われたって思うのは好きだからだ。恋してるから。
結婚して何年も経つのに私はまだこのひとに恋してるんだ。
びっくりして呟いたら、「何言ってんだ」って抱きしめられたまま笑われた。

「俺なんか桜に毎日恋してる。昔よりずっとお前の事が好きだ」

……あ、どうしよう。
私も今、「すっげー幸せ」だ。



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