しろくろ





 ――猫は走りました。
 友人のもとへ、戻りたいと。
 必死に走りました。転びました。犬に噛まれました。
 
 ――それでも、猫はひたすらに走ったのです。
 ただ、友のもとに戻ることだけを夢見て。


 いつからでしょう、その猫は電柱の脇に捨てられていました。真っ白な綺麗な猫でした。
 いつからでしょう、友は白猫の正面に捨てられていたのです。真っ黒な綺麗な猫でした。

 黒猫はただひたすら歌っていました。人間に拾ってもらうために、毎日、毎日。
 白猫はただそれをじぃっと見ていたのです。

 白猫は無口な猫でした。いつも、ただただ黒猫の歌を聴いているだけで、自分から歌ったりはしません。


 そんなある日、白猫に転機が訪れました。可愛い女の子が白猫を拾っていったのです。
 
「お前は俺を一人にするのか。おい、聞いてんのか!」

 黒猫の叫びを、白猫は聞いていました。いつものニコニコ笑顔で。
 それから、白猫は幸せな生活を送りました。

(ずっと前、僕が眠れなかったとき)

 黒猫の背中が震えていたのをよく覚えています。あの黒猫は白猫がいない世界で震えているのでしょうか。
 白猫は黒猫のことが大好きです。だから、いつも願っていたのです。

(僕は)

 黒猫に笑って欲しいと、そう願っていたのです。
 けれど、結局黒猫の笑った顔を見ることなく白猫はこの家の少女に引き取られました。

(元気にしてるかな)

 ふと、黒猫が奏でた歌が懐かしくなりました。
 とても、黒猫の歌が聴きたくなりました。


 ――白猫は、駆け出すのです。



「お前はなんでここに来たんだ」
「温かいご飯があっただろ!?」
「ふわふわ布団はどうした」

「お前は……何が不満でこんなところに来たんだ!!」



 ――ああ、泣かないで。
 僕は、君の笑った顔が見たいのに。
 そんな、辛そうな顔をさせるつもりなんてなかったのに。



「……君の歌、聞かせてよ」




 そう呟いた白猫の声は、消え行く命のとても弱々しいものでした。




 
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