きっとこれは策略(知り合いの)

 
 カタンと音がして、トレイがテーブルの上に置かれる。艶やかな黒髪を肩に流して小首を傾げ、こちらを見つめているアヤノとばっちり目線が合ってしまった。
 どうやらぼうっとしていたらしい。全く何をやっているんだと自分を叱り飛ばしたくなる。

「どうしたのシンタロー?……何処か調子悪いの?」
「……別に、問題ない」

 そっけなく答えれば、それならよかったと安心したように微笑む彼女の姿。
 一体何がどうなってこんなことになったのか、自分でもよくわからない。けれど、一回ここでバイトを始めてしまったのだからやめるわけにもいかなくて。
 確か、知り合いに『バイトするならココ!!』と何か企んでいるような表情ですごく推されて、いつの間にか知り合いが申し込みをしていたのではなかったか。
 そして、面接では一発合格。料理はできるかと聞かれて、レシピや野菜の切り方はいくらか頭に入っていたからはいと答えた。
 今になってはそれでよかったと思う。さすがに自分に執事の真似事のようなウェイターが出来るわけないと自覚しているし。
 それでほっとしたかと思えば、それからすぐに新しいバイトの子が入ったと紹介があって、それが噂のアヤノだったというわけだ。
 話を聞けば、そのアヤノも俺と同じくある知り合いにここを紹介されたのだという。

「あ、今ちょうど休憩なの?」
「……まあな」
「ちょうどいいね、私もなんだぁ。ちょうどお昼だし、何か食べに行く―――必要はないんだね」
「ああ。……………」

 肯定の返事を返せば、アヤノはキラキラと瞳を輝かせて目の前のそれをじいっと見つめている。
 俺が座ってる椅子の横には従業員やバイト専用のテーブル。その上に乗った、余った材料で作った昼飯のまかない。(地味にキレイ)
 それだけの証拠があれば、アヤノが何を求めているのかはすぐに分かる。

「……お前、食い意地張ってんな」
「は、張ってないよ!た、ただ美味しそうだなって……」
「それが食い意地張ってるって言ってんだ」

 うぅ……と何も反論できない様子のアヤノにちらりと目を向けて、苦笑する。
 そうすれば、アヤノは笑われたのが恥ずかしかったのか、頬を赤く染めた。そして、俺は自分の隣にあった椅子を引く。

「え……?」
「今日は量を多く作りすぎたからな、特別だ」
「……!」

 ぱあっと俺の言葉で全てを理解したアヤノの表情が明るくなる。単純だなとまた苦笑しそうになるが、我慢。
 そして、嬉々として俺の引いた椅子に座れば、ポスンと軽い音がした。

「ほら、先に食ってろ」
「うんっ」

 差し出した箸をアヤノが取る。嬉しそうに小皿に自分の分を取り分けている姿を見て、俺はなんだか温かい気持ちになった。





『私がこれを食べたいと思ったのは、シンタローが作ったからなんだよ』





 アヤノがその言葉を飲み込んだのを、俺は知らない。




13/04/27 UP

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