Merry Christmas‐聖夜の夜に‐
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※蒼架の性格とかがいろいろ違うけど気にしないが勝ち

















 ―――"聖夜の奇跡"、君は信じる? 信じない?











「クリスマス…パーティーですか?」
「ああ。どうやらそこは招待状をもらったやつしか行けないらしいんだよ」
「で、俺らがもらったのはいいんだが…」

「行く人数に余りが出たから千鶴姉様にも来て欲しいんだそうです」

「そうそう…。…って蒼架!?」

 12月に入ってすぐ、ここ薄桜学園の校長・教頭宛に届いたのは一通の手紙。
 それを開いたのが、今回の物語の始まりだった。





 吐く息が白くふわりと空気に浮かび上がる。それほどまでに12月という月は寒かった。
 今年は例年以上に寒いらしく、初雪が降るのも例年より2週間も早かった。
 そして、今日。…12月にある、1日だけの特別な日―クリスマス。
 
 少女―雪村千鶴は、今現在駅付近のカフェの前である人物を待っていた。
 今日、クリスマスパーティーに参加することになり、ここで待ち合わせとなっていたのだ。
 …が、千鶴自身、30分も早く来てしまったため時間が余ってしまったのである。

「…それほどワクワクしてるのかな…」

 自分ではいつもよりはワクワクしてるかな、などという風にしか自覚していないが、これほど早く来ているのだから間違いない。
 見ている人に分かるくらいには彼女はクリスマスパーティを楽しみにしていた。
 …毎年、クリスマスを一緒に過ごすのは双子の兄の薫と父親の二人だけ。
 
 それが、今年はたくさんの人と一緒に過ごせる。それだけで、千鶴には十分だった。

 千鶴が到着してから5分も経たないうちに、人ごみの向こうから駆けてくる姿が見える。
 おそらく兄がまだ早いと制するのも聞かずに家を飛び出してきたであろうその姿に、千鶴は苦笑した。
 
「…あっ、千鶴姉様っ!!」
「千鶴でいいのに…。…ずいぶん早いね、蒼架ちゃん」
「じゃあ千鶴姉で! …千鶴姉もじゃないですか。私はただワクワクが止まらな…いや、ワクワクが暴走しただけでっ!!」

 ワクワクが暴走したとは一体どういうことなのだろうかなどと疑問に思いつつも千鶴は笑顔で彼女を迎える。
 少し青みがかった艶のある黒髪は、いつも二つに結っているのに対し、今日だけとばかりに下ろされている。
 そのかわり、頭の上の方で少量の髪を二つに結ってうさぎのような髪型にしていた。

 元気で明るい彼女によく似合っていると思う。
 それを口にする前に、蒼架は一歩前に踏み出してきて千鶴を見つめた。
 どうしたのかと尋ねる前に、彼女はキラキラと瞳を輝かせながら口を開く。

「千鶴姉、今日は気合入ってるんですね♪」
「え!?」

 千鶴の声が裏返る。それを聞いて蒼架はクスクスと笑いを零した。
 そして、千鶴の手を取ると、蒼架は歩きだそうとする。

「カフェで少し休みましょう! ずっと立っててもしょうがないですし」
「そう…だね。そうしよっか」

 あまりにも無邪気すぎるその笑顔に千鶴の心は和まされる。
 この笑顔にはいつも助けられていた。太陽のような、ひまわりのような、明るく輝くその笑顔。
 千鶴はいつも思う。…"太陽"や"ひまわり"は蒼架であって、蒼架であるからこそ真価を発揮するのではないのかと。

 それほどに蒼架は千鶴の支えになっていた。唯一の女子の幼馴染として。
 
 ふわりとコーヒーの香りが漂う店内に足を踏み入れれば、外とは打って変わって暖かい空気が自身を包みこむ。
 白いマフラーに口元を埋めていた蒼架も、店内に入ればそれを外して腕にかける。
 周りから見たら仲のいい姉妹のような、そんな雰囲気を作りながらも二人は席についた。

「それより蒼架ちゃん。その紙袋は何?」
「んーとですね、サプライズですっ!! …私にはプレゼントを用意するお金も技術もありませんので」

 料理を作りたかったのだけれど、と蒼架がこぼした言葉を千鶴は聞き逃さなかった。
 そう、本当なら蒼架達は今日クリスマスパーティーを開こうかと企画していたのだ。
 しかし、急遽ほかの場所でのクリスマスパーティーにお呼ばれになってしまったため、諦めることになってしまったのである。

 千鶴はごめんね、と一言呟いた。しかし、蒼架は笑って大丈夫と答える。
 どうせ、ほかのメンバーも来るんだからお互い様と蒼架は笑った。
 
「でも、」
「…? でも?」
「…いえ、なんでもないです。…あ、そうそう! 今回のクリスマスプレゼントは面白いことになりそうだから、期待しててくださいねっ」

 面白いこととは一体何か疑問に思ったが、クリスマスプレゼントとまで言うほどのことだ。
 聞かないでおこう、と決めた時、ふと脳裏に浮かんだのは先ほど蒼架が呟いた『でも、』という台詞。
 先程、蒼架が何を言おうとしたのか。…それを千鶴が知る術は無かった。

「あ、兄さん来た!」
「…そろそろ時間だもんね。外に出ようか」

 外に出ると、先程よりももっと気温が下がっているように感じられた。
 暖かい店内にいたからかもしれないが、それ以上に下がっていることがわかるくらい。
 このまま吐いた息が凍ってしまうのでは、などという馬鹿な考えまでもが本当に起きてきそうで怖くなる。

 蒼架が兄である一のもとへ駆けていった。一こと斎藤は蒼架を一瞥するとため息をつく。
 それを見て蒼架が反発したが、斎藤の殺気の篭った目線ですぐにその火のついた反発心は鎮火する。
 まるで怒られた子犬のようだなどと思ってしまい、千鶴は口元を黒い手袋をつけた右手で覆いながら笑ってしまう。

 それが何か思い悩んでいるように見えたのだろうか。心配そうな表情を浮かべ、蒼架が千鶴に駆け寄った。
 どうしたのかと尋ねられ、『蒼架が子犬に見えた』などと素直に言える訳もなく。
 どうしようかと迷っていると、急に後ろから声をかけられる。振り向くと、そこにいたのは今回千鶴たちを誘った張本人達。

「…あ、近藤校長に土方先生!! 今日は誘っていただきありがとうです」
「……………蒼架、日本語が最後おかしかった。…近藤校長、土方先生、お誘いいただきありがとうございます」



 舞台は、開幕済みだった。







 気がついたら、一緒に来た斎藤・土方は女の人に絡まれているし、近藤はほかの偉い人達に挨拶しに行っている。
 完璧に出遅れてしまった千鶴は、一人端の方でゆっくりケーキを味わっていた。
 そういえば、蒼架の姿が見えないな…と千鶴が気づいたとき、丁度蒼架が戻ってくるのが見える。
 両手に持った皿には落ちそうなくらいに乗っているケーキ類。千鶴にも、と差し出した蒼架の顔は少し紅潮していたし、息切れもしていた。
 
 もしかしなくとも、蒼架は千鶴のためにとケーキのブースを駆け巡っていたのだ。
 息切れくらいは許してやらないと罰があたるんじゃないだろうか。

 それにしても、よくこんなに集められたな、と思う。これだけは本当に感心した。
 このパーティーには子供も参加していて、ケーキブースは接戦状態だ。
 その中でこんなにたくさん4皿分も取ってきてくれた蒼架に千鶴はありがとうと呟き、顔をほころばせた。

 皿に乗っているほとんどのケーキは千鶴が好んで食べるものばかり。
 前に千鶴の好みを聞いてきたことがあったが、まさかここで使うとは思ってもいなかった。
 千鶴の前に、照れたようにはにかみながら蒼架は皿を差し出す。『どれでも食べてください』と。

「よく4皿も持てたね。私も手伝いに行けばよかった」
「ううん!! 今日はクリスマスですもん、千鶴姉はゆっくりしてていいんですよっ!!」

 嫌味も何も含まない、純粋なその言葉と笑顔に思わず微笑んだ。
 そして、2人でゆっくりケーキを味わい、皿も空になった頃。

「あ…私はもう時間なので、失礼しますっ」
「え?」

 『私は、ですよ』とキラキラな笑顔で言われると何も言えない。
 一体どういう意味なのか理解しそこね、私はそこで呆然としていた。
 そういえば、蒼架は何か紙袋を持っていた気がする。あれは一体なんだったんだろう…と考えていると、目の前に現れたケーキの乗った皿。

「お一人ですか?」
「…えと、」

「そんなに緊張しないでくれていいですよ」

 ―――目の前に現れた、青みがかった黒髪を持つ少年。
 斎藤に似ているな、なんてことを思いつつ、その少年の青い瞳に魅入ってしまう。
 そういえば、斎藤も青い瞳だったような…、などという余計な考えをさせる間もなく、少年は千鶴の手を取った。

「お名前は?」
「雪村千鶴…です」
「千鶴さん。…いい名ですね」

「あ、あのっ!! 千鶴でいいです…!」

 思わず、口を次いで出た言葉を飲み込む暇もなかった。
 どうしてこんなことを言ってしまったのかわからない。しかし、目の前の少年は、瞳を軽く見開いてすっと細めた。

「いいですよ。―――千鶴」

 ふわりと微笑んだ彼をみて、何かが心に引っかかる。
 …どこかで、会った気がするのだが。彼はそんな素振りを見せないから、きっと気のせいだろうと自分を落ち着かせる。
 でも、やっぱり彼と話していて思った。―――彼は、全く知らない他人という感じをさせないのだ。
 思い切って聞いてみようと口を開いたところで『千鶴』と声をかけられた。
 まるで、この先の千鶴の行動を全て読みきっているんじゃないかと思わせるような口ぶり。

 なんとなく、この人は敵に回せないと思った。色々な意味で。そう、色々。

「少し、…ここから出ましょうか」
「え…きゃあ!?」
「ここだと、人目が多すぎますし。…見せたいものもあるんです」

 ほんの少し、目の前の少年は瞳を泳がせていた。まるで何かを探すかのように。
 そして、ようやくそれを見つけたのだろう。そちらを軽く一瞥すると、そのまま千鶴を抱きかかえた。
 幼子を抱くように、左腕を膝に回して、そのまま持ち上げる。そういった体制だ。

 ちらりと挑戦的な表情を明後日の方向へ向けたのを、千鶴が知ることはない。

「少し、走ります。…落ちないようにしっかり捕まっててくださいね」

 言い終わる前に、少年は駆け出していた。
 

 ガタッ、と大きな音を立てて土方と斎藤は椅子から立ち上がった。瞳には焦りの色を浮かべている。
 目線の先には、見知らぬ少年に抱きかかえられてそのまま連れ去られる千鶴の姿。
 一瞬、少年と目があった気がした。挑戦的な瞳に反射的に走り出そうとしてしまう。

 周りを囲んでいた女子や女性をかき分けながら出口へと向かう。人がこんなに邪魔だと思ったことはない。
 なおも話しかけてくる者たちを相手することなど、今の土方と斎藤にできるはずもない。
 その様子を見てすべてを察してくれた近藤が女子や女性を引き付けてくれた。

 土方と斎藤は内心近藤に感謝の言葉を述べながらも足取りを緩めることはしなかった。

「…っ千鶴…!!」
「………………」

 ―――追いかけっこの、はじまり、はじまり―――






「千鶴」
「あ…えと、」
「はい。…ココアです、ミルク多めの」

 よく私の好きな種類が分かったね、と呟くと、彼は苦笑混じりに何かを呟いた。
 それはいきなり吹いたつむじ風にかき消され、私の耳まで届かなかったが。
 温かいココアを受け取ると、柔らかな温かさがじんわりとかじかんだ指に染み渡るよう。

「そだ。俺の名前言ってませんでしたよね。…俺は、さい…じゃない、佐藤蒼(あお)です。気軽に蒼って呼んでください」
「…あお、くん?」
「くん付けしなくてもいいんですけどね。まあ、千鶴はそういう人だからなあ」

 蒼がはにかむように微笑むと、自然と千鶴の頬まで赤くなる。
 その笑顔はとても無邪気で、先程までの清楚な雰囲気が一瞬で消え去った。
 やはりどこか斎藤に似ている―――と感じたが、頭を横に振ってそのことは考えないように努めた。

「…千鶴」
「…へっ? …っ!?」

 ベンチに座っていた千鶴の隣に蒼が座る。考え事をしていた千鶴はそれに気づかず、声をかけられ顔を上げた瞬間に目の前にあった蒼の顔に驚く。
 ひゃわっ、という間抜けな声が漏れる。それに思わず赤面すると、蒼が苦笑した。

「そんな驚くことじゃないと思うんですが…。まあ、それが千鶴ですよね」
「え…?」
「俺も、伊達にここに連れてきたんじゃないですよ。…ほら」

 蒼が指差す向こうに見えたのは、春は花畑として人気の高い草原を彩るイルミネーション。
 夜の闇に映えてキラキラと輝くそれを見て千鶴は一瞬目を見開いたが、すぐに嬉しそうに顔をほころばせた。
 ベンチから立ち上がり、そのイルミネーションの方へと駆けていく。それを蒼は追いかけた。

「そういえば、今日はどうしてあそこに一人でいたんですか?」

 唐突に問いかけられたそれは、本日千鶴が一番聞かれたくなかったこと。
 それを聞いて顔を曇らせた千鶴を見て、蒼は全てを察したように目を細めた。

「…寂しい、ですか?」
「うん。…でも、」
「俺が居るから寂しくない? …嘘ですね。千鶴はそういうとこで我慢しちゃうんだから…」

 まるで転んで膝をすりむいて、その痛みに耐える子供を見つめる大人のような表情をした蒼。
 それを見て千鶴はぎゅうっと胸を締め付けられる。…蒼になら、言ってもいいかもしれない。………なんて、思ってしまう。

 ―――確かに、今日は蒼架と斎藤と土方と過ごす予定で…。

「今日はクリスマスなんですよ。…千鶴のお願い、言ってみてください」

 まるで、幼い子供を諭すかのように。
 まるで、自分の妹をあやす姉のように。
 …蒼の瞳は、そんな慈愛に満ち溢れていて。

「いい、の…?」

 思わず口を次いで出たのはそんな言葉。
 蒼の瞳を見ていると、自分の本当の気持ちを全てさらけ出してしまうんじゃないか。…なんて馬鹿なことを考えてしまいそうになる。
 それほど、蒼の瞳には不思議な魅力があった。それを見つめる私も本音を言いかけてしまっていて。

「千鶴。…クリスマスに、そんなしらけた顔してどうするんですか?」


 本当に、なんでも聞いてくれそうな蒼。
 思わず、口を開いた。


「―――斎藤さんと、土方さんと、蒼架ちゃんと、…一緒に居たいです」






 それが、私の願い。




 蒼は、分かりましたと返事をして、そのまま私の方へ向かってくる。
 右手を引かれながら、されるがままにされていた。
 ―――行き先は、おそらくカップル達が集まっているライトアップされた鐘のところ。

「あ、蒼くん…っ!?」
「僕は今日はお願いを叶えるサンタですよ。…どんな無茶な願いでも叶えてみせます」

 にこり、と振り返りざまに微笑まれてはもう何も言えない。私はそのまま何も言わずに蒼についていくことになってしまった。


「―――見つけた…!!」
「…千鶴…!!」


 ―――二人の手が千鶴に届くまで、あと、1分。


「千鶴、こっちです」
「あ、ありがとう…」


 ―――あと、30秒。


「じゃあ、ここに立ってください」


 ―――あと、10秒。


「え? …うん」


 ―――あと、5秒。


































「千鶴姉、ハッピーメリークリスマス」


































































おまけらしきもの(会話文ばっかり)





※会話文ばっかりっす







「千鶴姉、ハッピーメリークリスマス!!」
「「千鶴っ!!」」


























 ―――――3人の声が、同時に重なった。
 土方と斎藤は千鶴の両端につき、まるで蒼から守るかのように一歩前に出ている。


「…やっぱりお前か。何をやっている?」
「…おいそりゃどういうことだ、斎藤?」

「私が実は蒼架だったーってことにお兄ちゃんは気づいてるんですよ。よく気づきましたねー、お兄ちゃん」

「まあ、お前の兄だからな」
「なにげにお前シスコンか?」
「お兄ちゃんはシスコンじゃないですよ。私がブラコンなだけですよ」

「そうか。…ってはあ!!?」
「冗談です」
「冗談に聞こえる冗談を言え!!」

「…え? え…?」
「千鶴、どうかしたか?」

「あ、やっぱり何がなんだかわかんないって顔してる」

「あー…つまりあれだ、これ(蒼)は蒼架の男装バージョンってことだ」
「…そうなんですか…。……ってええ!?」
「千鶴義姉様、土方さんと同じ反応しないでくださいよ」

「蒼架、"義姉"の漢字が違うぞ?」
「いや、合ってますよ土方先生」
「斎藤…てめぇなあ…!」

「そんなことより。…千鶴姉にはもう一つプレゼントあるんです」
「え…そんな、いいよいいよ!!」
「遠慮しないでくださいっ!! せっかく千鶴姉だけに作ってきたんですから!」


 袋から千鶴がとしだしたのは、ふわふわと手触りのいいマフラー。
 青と白の組み合わせはとても綺麗だった。


「千鶴姉のために作ったんです。私は色違いですー!」
「蒼架ちゃんは何色なの?」
「オレンジと白ですっ!!」





(実は青にしたのはお兄ちゃんとくっついてっていう願望があるからなんですよー。千鶴姉には死んでも言いませんが)
(蒼架、お前は誰の味方だ?)
(もちろん、千鶴姉の気持ちを尊重してますよ。…基本お兄ちゃんですけど
(…おい)
(…聞こえてるぞ、最後)




 …蒼架のブラコン疑惑を残して、クリスマスパーティーは閉幕する。
 










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