小咄(2)
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千鶴ちゃん独白っぽいのの続き。
※少々狂愛風味です。苦手な方はお気を付けくださいませ。

 





















「ねぇ千鶴ちゃん」
「…はい、なんでしょうか」
「君はさ、何者なの?」

 突然の質問。千鶴はなんと答えようか迷い、言葉を選ぼうとしているのか俯く。沖田はそのあいだも楽しそうに千鶴を見つめている。
 ―――怖い。
 助けて欲しいと懇願したって意味がない。
 ―――この人は。私を堕とすところまで堕とすつもりなんだ―――
 そう、何度も実感していても。…沖田が変わることなど一切なくて。
 この状態を"おかしい"と思えるようになったのはいつぐらいからだっただろうか。

 ―――記憶が欠けてしまってから、私はこの人の姿しか見ていない―――
 そして、毎日のように彼はやってくる。なにか探るような瞳を煌めかせ、私を見つめる。

「何者か、と問われても。私は何もわかりません」
「んー…じゃあ聞き方を変えてみようかな。………君は人間?」
「…私、は―――…」

 ―――何を言っているのだろう、この人は。私は思わず口ごもってしまったけれど、実際言葉は後を次いで出てくることはなくて。
 沖田はそんな千鶴を冷めた目で見つめるだけ。
 ―――やめて。
 頭の中がさぁっと冷えた。彼の瞳が冷たい感情を灯していたから。

「ふぅん…。僕はね、いつも、思ってたんだ」
「何を、ですか」
「君を僕の手で壊したい。全て滅茶苦茶にしてやりたい―――ってね」

 にやり、と。
 彼の口元は弧を描く。
 それは更に私が怯える理由にしかならなくって。
 そして、嫌な予感が脳裏をよぎる。

「この間―――…って言っても君は覚えてないんだったね、ごめん。…この間、ね。…君は僕から逃げたんだ。…新選組、という僕の世界から」
「私が、ですか?」
「うん。その時にね、逃げる子は許さない―…って思って、斬っちゃったんだ」
「…――――っっ」
「君のご想像通りだよ。…僕は、君を斬った」

 千鶴の息が詰まる。沖田はその様子すら楽しげに見下ろした。
 傷跡―もう残っていないけれど―が、少しずきりと傷んだ気がした。

「その傷、ね。…あっという間に塞がっちゃったんだよ」
「………っっ!!!」
「ねぇ千鶴ちゃん、隠さないで…?」

 沖田が一歩、千鶴に歩み寄る。
 凍りついたかのように、その場から動かない千鶴。…否、動けないと言うべきか。


 ―――私の傷の治りが早いわけ。
 ―――私は、人とは違う。
 ―――ああ、そうだ。

 
 千鶴の中で、何かが切れた。そう、ナニカが。
 ふらりと彼女の体が揺れる。

「…私の傷の治りが早いわけ…。ああそうでしたか、そうだったんです。……私は、鬼ですから」
「……千鶴ちゃん…?」
「人間に滅ぼされた―――雪村の」

 うすらぼんやりとした瞳は、なんの色もしていない。
 この世界はたくさん色づいているはずなのに、彼女の瞳に映る色彩は全て、無彩色。

「私は、全て喪いました。…喪った代わりに、取り戻した…」
「…何、を」

 問うてはいけない。問うてはいけない。
 そう本能が警報を出していたけれど、沖田はそれに構わず質問ともとれる言葉を口にした。

「記憶、を」

「雪村の一族が滅ぼされた刻限(とき)までの―――」

 そうだ。
 私のナカにはナニカが足りなかった。
 その"ナニカ"が在った穴は、今日取り戻した…取り戻せた記憶によって埋められる。

 溢れ出すのは、憎しみ。
 人間が、憎い。
 村を滅ぼした幕府も、この人も、新選組も―――。




 スベテガ、ニクイ。




 ―――チヅル

 ああ、私のナカのナニカが目覚めてしまう。

 ―――ソロソロ、私ヲ開放シテクレテモイインジャナイ?

 口角が、今のこの空気に釣り合わないくらいにつり上がった。







「は…はは。……あはははははっっ!!!」






「!?」








「堕ちた! 堕ちた! 白い私もとうとう堕ちた!!」

 





 そして、ワタシは嗤うの。







「おめでとう、ワタシ。ハジメマシテ? 沖田総司さん―――」






 白イ髪ノワタシハ嗤ウノ。





 「祝福を! 闇に堕ちた白いワタシに祝福を!」





 あははははははっ!!!




 ―――この時には、もう。
 ああ、僕の知ってる『千鶴』じゃないや。
 なら、いらない。僕のちづるじゃないなら、いらない。
 かわいいかわいいかのじょをうばったかのじょ。
 …可愛い彼女を奪った罰だと思って受けてくれるよね?



 ……君を眠らせてあげるよ。



 今までの千鶴ちゃんが"白"だというのなら。今の千鶴ちゃんが"黒"だというのなら。
 黒の彼女を眠らせてあげるよ。


 だから、出ておいで?


 可愛い可愛い僕だけの『チヅル』ちゃん。



「祝福しよう、君がもっと闇に堕ちることを」



 ―――つぶやいて、振りかざす白刃が煌めいた。






























(狂ったのは、世界じゃなくて、僕ら)
(僕も、彼女も、狂ってる―――)








*(20130131:公開)  
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