みにちづ(2)
―――――事の始まりはおそらく山南さんから頂いた『びすけっと』なんだろうと思う。
そのせいで私の体は小さくなってしまったから、これを斎藤さんが土方さんに報告しないわけがなくて。
そして、私は今現在進行形で土方さんの部屋に連れて行かれている。
「斎藤さん…」
「なんだ」
「…私、これからどうなってしまうのでしょうか」
「………………………………」
斎藤さんは私の質問には答えてくれなかった。…でも、この質問に答えろっていう方が無理だよね…。
…先程なんか、斎藤さんの子供(しかも隠し子)って勘違いされるし…。
その時にうっかり土方さんに怒られてしまったけれど、それは斎藤さんだけで。
斎藤さんは、私を背中に隠していたから、私もそのつもりで隠れていたのだけれど。…流石にまずかったかもしれない。
しかし、時すでに遅し。今現在土方さんの部屋に向かっていることが答えなのではないだろうか。
「…副長」
「斎藤? …入れ」
「はい」
中に斎藤を入れると、土方はちらりと斎藤の方に目をやり―――固まった。
もちろん目線は、斎藤の腕に抱かれているモノの方を向いたまま。
「……………そ、の服装に髪型………まさか、」
「そのまさかです、副長」
「……どうなってやがる」
「それは私から説明します」
…普段なら、凛としたとても綺麗で美しい声に聞こえるだろう。しかし、今の千鶴の声にははっきり言って芯がない。
子供らしい、芯のない高い声。千鶴はそれを抑えてくれているからいいのだが、たまに沖田と遊んでいる子供の声はうるさく感じられる。
しかし、今現在斎藤の腕に腰掛けるような形で抱きかかえられている千鶴の声は逆に可愛いと思えるもので。
…少しだけ、ほんの少しだけ斎藤が羨ましくなった副長だった(嘘)
「…千鶴? 聞きたいことがあるのならば遠慮なく言え」
…そんな私分かりやすいですか?
「ああ。かなり分かりやすいと思う」
……そうですか。
…じゃなくて、…土方さんが怪訝そうにこちらを見ているのが気になるのですが…。
私、どこかおかしいですか?
「おい、お前らはなーに目で会話してやがる。……で、千鶴。これはいったいどういうことだ?」
「…それは私も存じません。…ただ、先程ついうとうとしてしまって、…意識が戻ったらこんな姿になってました。原因は『びすけっと』という外国の菓子だと思います」
「外国の菓子…山南さんか」
「察しの通りです」
さて、どうするか。…そう土方たちが思案し始めた時に、それは風と共にやってきた。
「…どっかの演劇のナレーターみたいに言わないでくれる?」
(…誰に言ってるんだろう…)
「千鶴、気にするな。あれが不思議な行動をするのはいつものことだろう?」
(…ですよね)
「…千鶴ちゃん、今何か失礼なこと考えなかった?」
ぎくり、と音がするくらいに千鶴の顔がこわばった。それを見て沖田の顔から笑顔が消える。
ひっ、と千鶴が悲鳴を上げる前に、沖田は斎藤の腕の中で縮こまる千鶴の顔を両手で押さえ込んでしまう。
…あまりにも素早く、無駄のない動き。いつもこんな動きをしてくれたらどんなにいいだろう。
それが無理なのは自負しているつもりだが。
「…千鶴ちゃん、いい加減一君の腕の中からこっちに出てきてくれないかな?」
そんな沖田の言葉に、千鶴は一瞬思案してから斎藤の顔を見上げた。
そして、そんな千鶴をちらりと見やり、斎藤はただ頷く。
(…何されるか分からぬ。行かぬ方が得策だ)
(そうですか? …分かりました)
…ふるふると首を横に振る千鶴。それを見て沖田の表情に険しさが増した。
斎藤に向かって殺気が放たれるも、斎藤はそれを難なく受け止めている。
「…何気に一君、千鶴ちゃんと無言の意思疎通してるみたいだけど…。…一君ばっかりずるくない? ねぇ土方さん」
「…それは確かに思ったが…。…斎藤、どこでそんな技手に入れた?」
「…………千鶴」
(…斎藤さんの表情を見ていればなんとなくわかりますよ)
「…というわけだそうです」
『分かるか/分かるわけないでしょ!!』
…結局。
ひじかたさんのところにいっても、おきたさんがじゃましてくるのでかいけつすることはできませんでした。まる。
「じゃないでしょ。君は一体何を言っているのかな…っていうより、いい度胸してるじゃない」
(だって本当のことじゃないですかっ)
「まあそうだがな。…仕方ない、副長の邪魔をしているだけでは拉致が明かないからな…。…こうなったら直接本人のところへ行くべきだろう」
「本人って…まさか、斎藤さん…!?」
『山南さんの所へ行く』
こんなに鳥肌が立ったのは生まれて初めてかもしれません。
きっとこれを『拒絶反応』って言うんだと思います。○月△日、天気:晴れ―――。
にゅうどうぐもが、きれいです。
*(20130131:公開)