Happy Valentine!/フリー小説(2013.03.13まで)
―――ふと、呼ばれたような気がして空を仰いだ。
「…?」
いつの間にか時間は瞬く間に過ぎていって、そして残ったのは自分という存在。
あの楽しかった日々はもう戻ってこないのだと、何度も自分に言い聞かせた。
しかし、それを忘れることができないというのが人間なのだろうと思う。
―――懐かしい、楽しかった日々。
そして、彼女の"自由"を奪ってしまった自分が悔しかった。
ただ、彼女の幸せだけを願っていたはずなのに、運命というのはどうやら俺たちを逃がすつもりはなかったらしい。
「…早く戻んねぇとな」
まるで自分に言い聞かせているように。…彼、棗は溜息とともにその言葉を吐いた。
まだまだ寒い2月。まだ息は白く染まり、そして何もつけていない指先は真っ赤になっている。
流石に少女のように手に息を吐きかけることはしたくないので、ズボンのポケットに凍えた手を突っ込んだ。
今更、こんな薄着で出てくるんじゃなかったと後悔しても、遅かった。
「…寒い」
自分が炎を操る能力を持っていようと、流石に公衆の面前でそれを披露するわけには行かない。
こういう時は、どうしてもあいつの温もりに触れたくなるから更に厄介だ。
このまま戻るか、いやでもまだ…と思考が巡り巡っている間に、遠くから駆けてくる小さな姿を目に止めた。
「棗っ」
「―――蜜柑」
心配そうに眉をひそめ、彼女―佐倉蜜柑―は棗を見上げた。
そして、ズボンのポケットに収まっている両手を引っ張り、そのまま棗の両手は彼女の両手の間にすっぽりと収まってしまった。
「こんな冷えてるんに…何してたん?」
ただ棗が心配なのだと言わんばかりの光を双眸に宿し、蜜柑は棗の目を見やった。
少しばつが悪そうにふいと目線を逸らされて、彼女は眉をひそめた。
「…まあ、何も聞かんけど。ほら、はよ帰らんと……あ」
「何だ?」
彼女は何かを思い出したように、自分の持っていた紙袋の中をあさった。
そして取り出されたのはシンプルにラッピングされた、中くらいの包み。
はい、と手渡されて、棗は何だこれはと言わんばかりの疑問の色を瞳に浮かべ、少女に問うた。
「…これは何だ?」
「ふふ、開けてからのお楽しみ、や」
悪戯っ子のようにクスクス笑う彼女を見て、棗は更に疑問符を浮かべた。
そして、手渡された包みを丁寧に開くと、中に入っていたのは暖かそうな黒のマフラー。
「うちら、こんな生活やろ? だからチョコは作れなかったんやけど…プレゼントくらいなら、と思って」
黒は棗に似合うからと、目元をうっすら赤く染め笑った少女を棗は強く抱きしめた。
「なつめ、だいすき」
「…ああ」
「………はっぴー、ばれんたいん」
(いつの間に)
(どうしてこんなに)
(お前を愛しいと思うようになっていたのだろうか)
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2013年初小説がバレンタインってorz
今まで薄桜鬼ばっかりの更新になってましたから…すいませ((
このバレンタイン小説からオンマウス機能を付けました。(オンマウスすれば説明が出るやつです)
去年のは…あれを移動させて貼り付けるのだけでもかなり疲れたので、あのままにしておきますごめんなさい。