君を無意識に追うようになったのは/りあ様へ(捧げ物)




 

―――――いつから、だった?


◇◇


「会長っ!! 会長ってば…。……会議の時だけ逃げるのやめてくださいよっ!!」
「…るせぇ。……別にいいだろ」
「怒られるの、私と蒼なんですよ!? 少しはこっちの迷惑も考えてくださ―――――」

 少女の説教する声が急に止まった。一体どうしたのかと会長と呼ばれた少年は、顔を覆っていた雑誌を少しずらした。
 彼女の目線の先にいたのはひとりの少年。銀色の髪に蒼穹の瞳が印象的な―――――。
 "蒼"、と一言、高いソプラノの声がそう紡いだ。彼女は助けを求めるかのように"蒼"の方へと向かう。その足取りは軽いものだった。
 満面の笑みを見せながら蒼に駆け寄る彼女は、傍から見ても蒼に好意を寄せていることがわかる。それがどことなく気に入らなかった。

「…会長、もう観念したらどうですか? 蜜柑にも俺にも見つかってしまったんですし」
「…出ねぇったら出ねぇ。あんな堅苦しいとこで会議なんてやってられっか」
「それでも将来数学教師になるとか言ってた人ですか? …教師になったらこんなことしょっちゅうですよ」

 蒼は痛いところをいつも突いてくる。そこがどうしても会長―日向棗―は気に食わなかった。
 いつもいつも先を読み行動する蒼。フルネームは確か、"海原蒼"と言っただろうか。いつも作り笑いで接してくる彼は棗にとって気に食わない存在ナンバーワンであることは間違いないだろう。蒼はいつも乾いたような笑みで棗や少女―佐倉蜜柑―に接する。それも理由の一つだ。
 彼は、人を信用していないのかもしれない。…そう思わせるくらい、蒼は他人行儀だった。

「もーっ!! 蒼はいつもそうやって痛いとこ突いてっ!! てなわけで会長、行くんならさっさと行きましょ?」
「…ちっ」
「舌打ちしないーっ!! 不機嫌なのは分かるんですけど、そういうのはやめてくださいよっ!!」

 ―――――そして、蜜柑は蒼の後を追っていく。
 それを見てイラッとしてしまう自分を情けなく思った。普段なら別にこんなことを気にしたりはしないのに。
 …いつからだろうか。こんな感情を彼女に対して持つようになったのは。

「ほら会長っ!! 早く行かないと…」
「……………」
「…もうっ、棗!! ほら行こっ、会議始まるよ!?」
「…最初っから普通に話してりゃいいんだ」

 ずっと前から彼女があいつを見ていることは知っていたし、それを自分がなんとも思っていなかったのは事実だ。
 …なのにどうしてだろう。今は、彼女があいつを目で追ったりするのを見て苛つく自分がここに居る。
 幼馴染である蜜柑とはずっと一緒だった。1歳差、ということもあり、中学校に入ってからは疎遠になってしまっていたが。
 そして、高校に入ってなぜか生徒会長になってしまった自分。次の年に蜜柑が転校してきたときは驚いた。
 しかも、あろうことかこの蒼という人物とともに生徒会役員にまで立候補して、二人はセットと言われるくらいに一緒に居るようになって。

 この、1歳差というものをこれほど恨んだことはない。それくらいに気に入らなかった。

「ほら、棗! いい加減そろそろ行かないとじんじ…神野先生の雷が―――――」
「雷とかはどうでもいい。…会議とか出るような気分じゃねぇんだよ。文句あっか」

 すると、ドアのところで自分を呼んでいた蜜柑がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
 雑誌の隙間からその様子を見ていたが、すぐに視界が広がる。視線を少し上にずらすと、目の前にあったのは頬を膨らませるようにして雑誌を手に持つ蜜柑の姿。
 いい加減にして欲しいという彼女なりの意思表現なのかもしれないが、そんな愛らしい顔で睨みつけられても逆効果である。

「返して欲しかったら会議出てくださいね」
「別にそんなの必要ない」
「……………どうしたら出てくれます?」


「―――――お前が、海原蒼から離れたら、な」


 そう言って、ゆっくりと彼女の方へ自分の手を持ち上げる。伸ばしたその手は彼女の華奢な手首を簡単に掴んでしまう。
 そして、自分の方へと引き寄せる。何の抵抗もなしに彼女はそのまま俺の胸へ飛び込むように倒れ込んだ。
 小さな悲鳴が聞こえるが、それもまた可愛らしい。…こんなことを思ってしまう時点でかなり重症だということがわかる自分が恥ずかしい。

「お前があれと一緒にいるから、それの方が気になって会議なんかに集中できねぇんだよ」


(君が手に入るのなら)
(このイライラが消え去ってくれるのなら)

(全ては君の、思うがままに)

 
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