イライラするのはあいつのせい/fumiko様へ(捧げ物)








「―――――…ここか」




 一人の少年が大きな学園の前に佇んでいる。その容姿はとても整っていて、道行く人々がチラチラと少年の方を振り返っていた。
 そして今、少年は、この牢獄のような学園に足を踏み入れることになる―――――……。




「翔くん…だね。こっちだよ♪」
「ここの教師…か」




 少年は門をくぐり抜け、さっき出会ったばかりの教師についていった。そして案内されたのは応接室。
 そして先ほどの教師―鳴海は上に報告することがあるとかで、翔を置いてそのまま何処かへ行ってしまった。
 翔が周りを見渡すと、周りには装飾品がたくさん飾られており、この学園がどれくらいの金持ちなのかを象徴していた。




「で、なんで応接室に生徒が居るんだ」




 そのとおり、応接室のソファーには二人の少年が横たわっていた。怪我をしているのが気になる。そして黒髪の少年を見やった。
 普通、こんなにたくさん怪我なんてするか…? と少年が疑問に思ったところでわかるわけもない。そしてそのまま木の椅子に腰掛けた。




「…姉ちゃんも居るんだっけ……」
「ふーん、キミ、お姉ちゃんがここに居るんだ」




 気配が無かった。気づいたときには遅い。いつの間にか胸ぐらを掴まれて壁に打ち付けられていた。
 少し呻き声を上げてしまった自分が恥ずかしい。しかしどうやら今そんなことを思っている暇は無いようだ。
 まだ黒髪の少年は起きないよう。そして金髪碧眼の少年に問い質されているとき、急に扉が開く。―――――金髪の少年が声を発した。




「さ…くら」
「ルカぴょんっ!! 棗がここに居るって聞いたんだけど…って、え?」
「佐倉? 何固まって…」




 佐倉、と呼ばれた少女は年齢は14才くらいだろうか。ポニーテールに結い上げた茶髪の髪を揺らし、応接室に駆け込んできた。
 翔はその少女を一目見ると、すぐに微笑む。ルカがそれを見て怪訝そうに表情を歪めた。




「しょ…翔…?」
「正解。久しぶりだな、姉ちゃん!!」


 すると、タイミング悪くもう一人の少年も目を覚ました。ちなみに今は翔が蜜柑に抱きついている、という光景が広がっている。
 そして棗と蜜柑は付き合っていて、そしてその棗が目を覚ましたときに翔が蜜柑に抱きついた。―――――嫌な予感しかしない…。
 目の前の光景を理解するのに少し時間がかかったが、次の瞬間、棗から殺気が放たれる。普通の人なら腰を抜かしそうだ。




―――――そう、普通の人ならば。




「あれ、キミ、どっかで見たことあるなーって思ったら…」
「つか離せ翔!! 締まってるって首!! 死ぬって!!」
「あー…ゴメンナサイ」




 翔は何故か腰を抜かさなかったが、今はそんなことはどうでもいい。棗にとって問題だったのは、どうして見かけない少年が蜜柑に抱きついているのかどうかだけだった。それが蜜柑の赤の他人だったならばきっと恋敵になっていたであろう。
 しかし、翔は蜜柑の双子の弟。蜜柑に対しては恋愛感情のようなものは抱いていない。―――――つまり、只のシスコンなのだ。




「ったく…焦らせんなよ」
「え、何棗?」
「……………………………蜜柑、ちょっとこっち来い」




 蜜柑は頭にハテナマークをたくさん浮かべながらも棗の方へとてとてと歩いて行く。次の瞬間、蜜柑の身体は棗の腕の中にあった。
 それを見た翔が少し眉を潜める。この光景はちょっと気に食わなかったらしい。しかし、ここは翔だ。冷静に対応する。
 



「ねぇ姉ちゃん。変態もそろそろ来るみたいだしさ、教室まで案内してよ」
「変態に案内してもらえ」
「だって変態とはまだそんなに喋ったことないし…。双子だからこそ、だろ?」




 鳴海が変態呼ばわりされているのは無視かい。
 ……それは置いておこう。そして本当に火花が出そうだな、とルカが思った瞬間、応接室の扉が開いた。
 KY鳴海=変態の登場である。手に持っているのは翔専用の制服だろう。中等部の夏服だ。




「あれ、蜜柑ちゃん来てたの? って棗くん…見せつけてくれるね」
「ほっとけ。つかそこにいる翔って奴、さっさと連れてけ」
「姉ちゃんも一緒に行こ。流石に一人だとちょっとなぁ……」




 ここは空気を読んでKY鳴海、翔を連れて行く―――――なんてことはしない。そのまま棗も(引きずられながら)連行された。
 棗は相変わらず蜜柑の傍を離れようとしない。そしてHRで翔が自己紹介をしたとたん、女子から奇声が次々と発せられた。
 蛍はもちろん翔の写真を撮っているし、男子は女子を優しくなだめる翔を尊敬の眼差しで見ている。
 今翔の方を注目していない人物といえば―――――……。




「……おい、何寝てんだよ」
「……zzz」




 ……窓側の一番後ろに座っている棗とその隣で居眠りしている翔の姉である蜜柑だけだった。
 翔がそちらに視線を向けるも、棗も蜜柑も気づかない。棗は声をかけても起きない蜜柑を見て軽く微笑んでいた。
 そして次の瞬間、蜜柑のポニーテールを引っ張る。彼女は痛そうに頭を抑え目を覚ます。流石にHR中に悲鳴を上げるわけにはいかない。





「……棗、何すんねんっ!」
「お前が起きないのが悪い」
「仕方ないやん!! 昨日の夜も忙しかったんやし…」




 その会話は翔には聞こえていなかったが、こちらから見ていても何を話しているかがわかるような気がしてならない。
 何より翔にとって気に食わないのが、“棗が蜜柑に触れている”ことだった。さっきの応接室の時もそうだ。
 ――――――――――この“イライラ”は一体なんなんだろう……。




「翔くんの席は…今井さんの隣で☆」
「……はい」




 変態教師・鳴海に言われるがまま、蛍の隣に座る。丁度その隣が蜜柑だった。相変わらず蜜柑は棗と何かを言い争っている。
 その様子を見てさらに翔のイライラが増していっているような気がした。表情が翳っていくのが見ていて分かる。
 すると、隣でその様子を見ていた蛍が翔の制服の袖をくいくいと引っ張った。翔が蛍の方へ顔を向ける。




「……この程度で棗くんに嫉妬してたらこの先やっていけないわよ」
「……………嫉妬なんか」
「してるじゃない。……まぁそんな表情も売れそうだからいいけどね」




 カシャッ、と嫌な予感しかしない音が聞こえた気がした。……否、気がしたではない。聞こえたのだ……!!
 慌てて聞こえた方向を見ると、蛍衛星(カメラ機能付き)が翔の写真を撮っているところだった。




「……い、今井…っ!!」
「これは十分活用させてもらうわ。……いくらになるかしら…」




 それを聞いた瞬間翔の表情が一変する。返せと言わんばかりに蛍衛星に手を伸ばす。……しかし、届く寸前で蛍衛星は姿を消した。
 驚きつつも蛍の方へと向き直る。―――――蛍の表情がさっきと全く違っていた。







「……翔くん。これを返す代わりと言ってはなんだけど…」
「…何だよ」
「……正直私もムカついてるのよね、日向棗に。だから手を貸してくれない?」




 手を貸す、という言葉に翔が目を見開いた。何もかもが完璧そうな彼女が手を貸してくれない? と自分に頼んでいるのだ。
 そしてその内容を聞いた瞬間、翔が微笑む。その微笑みを見たものは全員こう思っただろう。




(((((棗さん、逃げてください……!!!!!)))))




 そしてその後、日向棗という人物の秘蔵写真という名の“本人に対する嫌がらせ写真”と呼ばれるほどの写真が裏社会で出回ったという。













 
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