【タイセツナオモイデ。】/柊小夜様より(頂き物)








心地よい風が頬を撫で、暖か太陽の光が降り注ぐ。
あれからかなりの時間がた経ち、お互い小さかった頃よりかなり大きくなっていた。
二人並んで歩くその姿は夫婦そのもの。しかし、二人は結婚しているわけではなく付き合っているわけでもない。

沢山の年月が過ぎ、今日久しぶりに顔を合わせたのだった。
「久しぶりやな、棗。めっちゃ大きくなったやん。」
「…てめえも胸以外はな。」
「ほんま、あんたは変わらんなー…。」

変わることのないそんな会話をしながら二人はとある土地へと向かっていた。
賑わっている道を抜け穏やかな街並みになり、それでもまだまだ進んでいく。

「蜜柑、…あの後何処に帰ったんだ。」
「ウチは普通にじーちゃんの家に戻ったで。血は繋がってなくてもじーちゃんはウチの家族やから。…棗も?」
「ああ。俺も流架と一緒にあの街へ帰った。」
「葵ちゃん元気?」
「あいつはあれから何も変わってねーよ。」
うふふっと楽しそうに笑い、お互いそれからのことをそれとなく話したのだった。


辺りは住宅街へと移り変わっていき、やがて二人はその住宅街の中にひっそりと建っている一つの柱の前で立ち止まった。
そこに書かれていたのは、





__________________“国立アリス研究機関学園本部跡”



「もう、あれから何年経った…?」
「…今年で10年。」

10年前までそこにあったとても大きな学園は跡形もなく、今は一本の柱に纏められてしまっていた。
沢山の歴史、事件、時間、思い出が全てその柱に纏められてしまっているのは仕方のないことなのか。
一部の元学園生徒及び教師は定期的にここに訪れている。


学園が解体された後そこは普通の住宅街になり、暖かな空気に包まれていた。
「なんか、すっかり面影が無くなってしまったな…。」
「仕方ねぇことだろ。…それに、これが“普通”なんだっつの。あれは違った。…“異常”だったんだ。」
「……そうかもしれへんな。」


「もういいか。」
「うん、此処までついてきてくれてありがとう。…帰ろか。」

今度は元来た道ではなく、少し違う道を遠回りしながら帰っていく。
お互い久しぶりに会って、別れたくない気持ちが強くなりそれが行動に表れていた。


「皆、元気に過ごしてるかなー…。」
「人それぞれだろ。それなりに楽しんでるやつもいれば、自分の無力さに落ち込んでいるやつがいても可笑しくない。」
「それはそうかもしれへんけど、やっぱり元気に過ごしていてほしいな。」
それは彼女自身の望みであり、また皆の願いでもあるはず。

しかし、その願いが形となることはなく、お互いを想うことしかできないのだ。
その想いが伝わることもなく、それによって誰もが心苦しく暮らしているのかもしれない。


その後二人は別れる場所に着き、発つ時間が早かった棗を蜜柑が送る形となった。

「棗、大学卒業したら蛍もつれて会いに行くな。」
「嗚呼。」









「__________________じゃあ元気で。」




end.
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