天邪鬼/玖牙 律様より(頂き物)








「なーつめ!」
クラスのムードメーカー。
そう言えば聞こえはいいが、要は騒がしいだけ。
教室のドアから手を振るあいつを横目に、俺は本に視線を戻した。

あいつと話すようになった切っ掛けは何だったか、記憶にない。俺の中でのあいつの存在なんてそんなもの。
そんなことを考えていると本が視界から消えた。
「棗!無視すんな!」
顔を上げれば顔に似合わず未だにツインテールの阿呆面。
高校生にもなっていつまでその髪型でいるつもりなんだと何度言ってもコイツは聞かない。
片手には俺の手にあったはずの本。
「返せ」
「いやや!話も聞かん奴には返せん」
夏の暑い陽射しは窓側一番後ろの席の俺には堪える。
これ以上熱くなるのは御免だ。
「何だよ、話すならさっさとしろ」
そう促すと、少し不服そうではあったが直ぐに満面の笑みで話し始めた。
「あんな、近所のおじさんから遊園地の招待券貰ったん!
丁度四枚やから今週末蛍とルカぴょんと行こっ!」
ひらひらとチケットを見せ、流架と今井にはもうOKを貰ってあると嬉しそうに言う。
昨日まで期末考査で死にそうな顔をしていたというのにこの変わり様。おそらく明日から返却される答案のことなど頭にないのだろう。
主要科目で赤点を取ったら夏休みに補習が行われる。いつもテスト前にも関わらず自分の勉強の邪魔をされるのだから赤点など取られたら堪ったものではないが。

話が逸れたが、そもそも週末まで一日中顔を合わせなければならないなんて、拷問だ。
「行かねえ…」
「えーっ!?」
不満そうにバンッと机に手を付いた隙に本を奪い返す。
「あっ!」
再び本を開いた俺に、仕方ないというようにボソリと呟いた。
「それなら委員長でも誘おうかなー」
「…おい、誘うならパーマとか女子にしろよ」
つい口を開いてしまった。
それに訝しげにする。
「へ?何で?
あ、でもパーマたちは予定あるって言ってたから多分無理や」
「……」
また顎に手を当てながら考え始める。出てくるのは男の名前ばかり。


そうだ、出会った時からそうだった。
俺は中学からこの地区に来た。殆どの生徒が小学校からの持ち上がりだった為に一人少し浮いていたが特に気にはしなかった。
そこで目に入ったのが一際大人数で固まっている集団。よく見れば、その中心には表情がコロコロと変わるツインテールの女子。集団には他にも女子はいたが男子の割合の方が多く、そいつが好かれているのが目に見えて判った。


今もそれは変わらない。こいつの周りにはまるで中心に渦でもできているかのように人が集まってくる。
それが五月蝿くて、俺はいつも気に食わない。
「……く」
「へ?」
ボソリと言えば聞こえなかったのか、思考を止めこちらを見た。
「…やっぱ行く」
もう一度言えば、表情を明るくさせ本当かと聞き返してきた。それに頷くといよいよ嬉しそうにクルリと背を向け、前方にいた今井たちに手を振った。
「OKもらえたっ!」
今井がそれに軽く手を振り返すと、またこちらを向く。
「楽しみやな!!」
満面の笑みに陽射しがきらきらと輝いた。

ああ、止めろ。
そんなのは反則だ。









「バカよね。断るつもりなんてない癖に」
その後あいつは他の女子の所へ行き何かの雑誌を広げ盛り上がっていた。
俺はさっきの今井の表情が気になり二人のところへ行くと、案の定話していたのは俺の悪口。
「まあ、棗だから」
それにクスクスと笑いながら返す流架。
「うるせぇ…」
この事ばかりは分が悪いので無理に悪態をつくしかない。
「そんなんじゃいつまで経っても蜜柑は気付かないわよ」
「……」
そんなのは重々承知で、言われることではない。
俺がそっぽを向くと今井は態とらしく溜め息をつく。
「あの子バカだけどモテるの知ってるでしょ?あの性格が好かれやすいんだから悠長にしてるとあっという間にかっ拐われるわよ」
「……」
巫山戯てる。
あいつを好きな奴?
初めて声を掛けられた時の言葉も、どんなに下らない話も全部覚えていて、どこにいたって何をしていたって頭を占めてしまっている人間以上にあいつを好きな奴がいるのか?

そんな風になるなんて理解不能だ。

それが、誰でもない俺だなんて、全くもって巫山戯てる。








ばか蜜柑

俺以外の奴にそんな顔見せてんじゃねえよ



こっち向け

俺だけみてろ






――――――
琳花様、相互リンクありがとうございました。
改めて宜しくお願いします。


夏に相互リンクした為、季節はずれなものに…
すみません。
リクエストは『学生パラレルで棗が蜜柑に片想い』ということでしたが、いかがでしたでしょうか?

琳花様のみお持ち帰り、書き直し請求可能です。


―――……

こちらこそ、ありがとうございました。
一旦サイトが休止(!)ぽくなってしまい、ようやく再開されかけてますので、それにあわせて相互小説をアップさせていただこうと思います。


…1年くらいお待たせしている気が…本当に申し訳ないです……!



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