結ばれない恋だと分かっていても/胡桃様より(頂き物)









 とある街、アクアラバー。そこは国全体が豊かな所で船での貿易が盛んな地域だった。
街の由来の通り、アクアとは海や水を連想すると分かりやすい。そう、この街は海に囲まれている海の街、いや美しい街なので別名人魚の街とも言われているのだ。
なびいているカーテンにそっと浸すように優しく掴むと、海の優しい塩の匂いが部屋を充満し、鼻を伝って感じる。






「ん――…今日もいい天気やな」







丁度今の時間帯は朝の7時頃だと推定される。
カモメの朝の挨拶と船の出港の合図が小さからず耳に聞こえてくる。太陽も昼間のような暑さは感じられず柔らかい光が頬に当たる。
彼女はそんな太陽に笑顔を向けた。






「――はよ行かな、また怒られるな」
在る少女は写真に向かってそう言った。その瞳はとても優しくて愛おしそうな輝かしい目、きっとこの少女にとって大切な存在だと思われる。
朝ご飯を少し摂ると、鏡に向かって髪を二つに縛り玄関の方へと歩いて行った。






「行ってきます、お母さん、お父さん」
誰も居ないはずの部屋に向かって笑顔を向ける少女は静かにドアを閉めた――…。



++





「遅いぞ、俺をいつまで待たせるんだ」
「ごめんやって…!これでも走って来た方やねんで?」







 少女と話している少年…その少年はこの国の時期王子である棗。
少女の名はこの国で暮らしている少女、蜜柑。この2人は王宮では主と僕。主の命に僕が従えるという関係。
だが外に出れば、恋人同士という形式の関係――。2人は愛し合っている。だが、王子と一般市民は結ばれては行けないルール。
主と僕は恋愛関係にはなっては行けない――――。そんな掟がこの国にはある。






「…そう言えば、執事の人は?」
「網走なら、俺の婚約者って言う女を帰ってもらうよう説得している。毎日毎日、あんな婚姻ばかりで面倒くさい」
「……そうなんやあ」







 婚約者、と聞けば胸が痛くなりそうにズキズキと刻み出す。
棗…いや、王子の歳はもうすぐで18歳。法律上、今年の誕生日で結婚出来るという決まりが存在する。
女性は16歳で結婚出来るからいつ、違う国のお姫様と婚姻の印がつくか分からない。
こんなささやかな時間がいつ消えてしまうかも分からない。毎日不安になりつつも、彼の隣に居られる幸福感を同時に背負っていた。





彼女の一言に彼は何かを察したようで、一つため息をつく。






「…別にお前が気にするような事じゃないだろ。俺は好きな奴としか結ばない。親父の言いなりにはならない。そして、あんな忌々しいルールをつぶしてやる」
彼の真剣な瞳を見て、思わず涙が隠しきれなくなった。







だけど、ここで泣いてはいけない。2人の居るこの場所は蜜柑にとって大事な場所だから。





「…そう言えば、アレ持って来たで」
気分を変えようと、蜜柑は自分が持って来た鞄の中から紙のような色紙を棗に見せた。







「これが今日の七夕に使う、願いを書く紙なんだな」
「そうやで!もうビックリしたわ、棗が今日が七夕ってこと知らんなんて」
「毎日、帝国学や技術学か暇なときは読書しかしてなかったからな。こういう行事はしらねーんだよ」












これを聞けば、王子がどんなに大変で苦労を背負って来たのかが分かる。
屋敷では何度も取引先との交渉も見て来たし、書斎では家庭教師がやって来て毎日勉強。そんな生活が当たり前だと思うのは棗だけだ。









「お…棗は何のお願いごとにするん?」
「今、王子って言いかけただろう。2人で居るときは下の名前で呼べ、蜜柑」







少しムッとした顔がまた蜜柑にとっては嬉しくてたまらない。
屋敷では笑った顔やこんな自然な表情は全くなく、ほぼ無表情だと言って良いくらいのありさま。
この笑顔を蜜柑だけが知っている。それは特別ってこと――――







「ごめんやって…!それより、棗はどんなお願いごとにするん?」
「別に何でも良いだろう。これを最終的にはどうするんだ?」
「夜に笹って言うのに付けるんや!今日、屋敷に小さいのやけど持って行くからな」












蜜柑の言葉に棗は頷いた。そして、2人の大事な時間が終わる合図が聞こえて来る。





「もう時間やな。また後で屋敷に行くから」
「ああ」




ここを離れたら、次に会うときは主と僕の関係―――







寂しさを覚えたのは、幸せの次にやってくる悲しい時間だった。

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