月夜に架かる、一つの願い/胡桃様より(頂き物)











「もう、ウチは駄目やな」








病室で静かに声が漏れた。
左手には点滴が刺されており自由に動く事も出来ない。顔を横に向け微かに空いている窓の光に目を背けた。










「一度でも良いから外に出たかったな――――…」










この少女は生まれたときから体が弱かった。
幼馴染みと聞かされた近所の女の子は度々顔を出してくれるので、幼少の頃はそこまで寂しくはなかった。
周りにも病院仲間と言って友達は居た。だけど、何年も何年も月日は経ち、周りの友達はどんどん退院して行った。










――――最後に残ったのはウチだけ…。







今、健康な体だったら中学3年生になっていた。
中学と言ったら新しい友達に新しい恋、辛い経験や乗り越えられる嬉しさを体感出来ただろう。
だけどそんな思い出の無いまま、死ぬのは嫌だ――――――










『蜜柑ちゃん、点滴を外すから体を起こしてもらえるかな?』








ノックをして看護婦さんがウチの病室に入って来た。
左側に回ってウチの点滴の針を抜く。もう、これさえ痛いと感じなくなってしまった。










『蜜柑ちゃんももうすぐで退院出来るから頑張ってね。今、先生とお母さん達はお話ししてるから待っててね』








――そんな事言って、本当はウチの命の期間はもう短いんやろ?








自分では分かるねんで。だってウチの体やもん。それくらい分かる。








もう残り少ない日々でしか生きられへん。だから、神様お願いします。ウチの願いを、憧れを一度でもいいから経験したいんです。








窓の向こうに在る月と近くに輝く天の川に想いを込めた。






すると、急に強い風が吹き込んで来た。

カーテンがとてもなびいている。







微かに風がやむと、私の目の前に立派な黒い服装をしたウチと同じくらいの少年が立っていた――――







「あんたは誰や?」
「俺はお前を知っている者。お前を迎えに来たんだよ」
「え?」








急に訳の分からない事を話す少年。正装のようなしっかりとした黒いスーツ。





赤いネクタイは彼の瞳の色にとても似ている。――ああ、この人は本間に誰なんやろう?







「迎えに来たってどういう事なん?」
「そのままの意味だ。俺は死神、お前の命を貰うもの。さあ、手を差し出せ。お前も薄々気付いているだろう。じゃあ速い事のこした事は無い」






思いっきり理不尽な言いがかりを付ける少年。
少女は何がなんだかもう、混乱した様子で頭を抱えている。少年を見ると手を差し伸べている。








「アンタの手、握ったらウチは死ぬんか…?」
「そうだな。苦しい死に方をするより俺の手を握れば楽に死ねる。さあ、どうするんだ?」






選択があまりにも直球すぎる。
他にもっと未来を開こうとする選択肢は無いのだろうか。もう、この考えはマイナス思考でしかない状況。
――――ウチには生きる道は無いの?








「……やり残している事があるのか?」





私の様子を見た彼はボソリと声を出した。






「やり残した事というか…一度だけでいいから叶えたかった夢があるねん」
「なんだよ、それ」






聞いた途端、彼女は顔を赤らめ小さな声で吐いた。
それは中学3年生、いや女の子が一度は経験する好きな人と結ばれる瞬間――…。







「ウチな、一度でも良いから大好きな人と手をつないで歩きたかってん。やけど、外には出られへんし好きな人なんか居らへんから叶えられへんねんけどな」






斜め下を向きながら話す彼女。
今こんなことを言っても叶うはずが無いと思っているからだ。







「じゃあ、その夢叶えてやるよ」
「え?」






急な発言に言葉が漏れた。
そんな答えなんて予想もしていなかった出来事。ウチの夢を叶えてくれる?自由に外にダラレルン?








「外に出る事はお前の体からしてまず無理だな。好きな人と歩くだけで良かったのか?他には考えてなかったのか?」
「え…うん」






そう言うと、彼の口から溜息が漏れた。






「しっ…!仕方ないやろ。恋人同士になっても何するかとか知らんねんもん」
「……じゃあ、恋人同士がする事、俺が教えてやるよ」






少年は彼女の近くまで寄って来た。
手を帆に近づけソッと触れる。――そんな仕草に思わず身震いをする。

「なっ、急に何すんねんっ!」
「だから言っただろ?教えてやるって。良いから目を瞑れ、俺が今からすることに抵抗するなよ」
「え?何言ってんね…!?」






少年の顔がウチの顔の所に在る。唇が押されている感じがする――…。息が出来へん――…。






「んっ!……」





抵抗しても少年は男の子。ウチの力ではどうにもならへん。
ウチの抵抗は無謀に負けてしまった。それからもう、今は何時なのだろうか。







「これが恋人同士がするキスだ」
「絶対にちゃうわっ!アンタ、キスする時間長すぎるもん」
「コレが普通だ」





言い争いが始まった。そして気がつけば、何故か笑っている…?







「じゃあ気がすんだな、あの世に行くぞ」
「ま、待ってっ!ウチまだお母さんとお父さんにお礼も言ってないし、蛍にも何にも――」






ウチが病生活をしている間、支えてくれた人達。
その人達にあの世に行く前に感謝の気持ちを伝えたい――――――。





「じゃあ、俺の手を握れ」
「もう行かなきゃ駄目なんか?」
「違う。お前の感謝の気持ちを俺の力で手紙にしてやる。早くしろ。俺は待つのは嫌いだ」
「う、うん」








そして何もかも終わった。叶えたい夢も感謝の気持ちも――










20××年7月7日。







太陽の君が天国へ少年と行った日のお話でした。




END+。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -