拾参 | ナノ

第拾参幕


――闇は、連鎖するが宿命 







「―――そ、総司……?」
「沖田先輩……」
「全然ダメじゃない平助。何してるの」
 千鶴の横に並ぶように立った沖田は、ニコニコと笑顔を浮かべていた。
「こんな雑魚に手こずってたら、これからどうするつもり?」
「どうするつもりって……今日だけじゃねーのかよ!」
「当たり前でしょう。連鎖するんだよ、こういうのって。一匹現れたら何匹もいる――まるでゴキブリみたいにね」
「うっわ気持ち悪!変な例え使うなし」
「それで?……君はこんな時間にどうしてこんなところをほっつき歩いているのかな」

 鋭く翡翠がきらめいた。少しだけ殺気を込めた目線を向けられ、千鶴は目を細める。
 ――彼が"知っている"のは私が"知らない"事?
 彼は、知っているような行動をとっているから。千鶴はそれを疑問に思っている。

「……沖田先輩は、知っているんですか……?」
「ん?何を?」
「…………"やらなければならないこと"です。藤堂先輩は知らないみたいなのですが……」
「やらなければならない?そんなこと、僕は知らない。それより僕の質問に答えてくれる?」
「私はこの辺りを散歩中です」
「さっきは探検だって言ってたじゃねぇか……」
「どちらも同じでしょう?細かいことは気にしちゃダメですよ。まさか藤堂先輩ってA型ですか?細かいところまでグチグチ言ってヒステリックな」
「んなわけねーだろ!」

 パン、と総司が手を鳴らす。鋭いその音が平助と千鶴を黙らせた。
 
「くだらない言い争いなら学校でやってくれない?……で、千鶴ちゃん」
「なんでしょう」
「ケータイ持ってる?」
「え」



 ―――夜。ケータイが鳴った。
 ケータイというよりスマホなのだが。ロックを解除し、メールの受信箱を見る。
「……ふふ、早速メールくれたんだ。質問攻めだけど」
 先ほど、いきなりの場面転換にさすがの平助もついていけずにいた。『ケータイ持ってる?』の問いかけからメアドを聞き出し、はたまた電話番号まで。
 そして、自身のメアドとスマホの番号を交換し、『聞きたいことはメールでね』という条件をつけての解散になった。
 早速送られてきたメールには、質問がいくつか箇条書きで綴られている。

 ニコニコしながら、その文章を目で追った。

「……………」

 この数なら、自身の口で答えたほうが良さそうだ――と判断する。(ただ単にめんどくさかっただけ)

「明日って何の予定が入ってたっけ……」

 スマホをいじり、予定を確認する。明日は何も予定は入っていない――。
 そして、もう一度メール作成画面を開いた。

「……雪村、千鶴ちゃん」

 彼女の力はどの程度なのだろうか。想像して楽しくなった。
 そして、予感がした。―――彼女との出会いが、運命の分岐点なのだと。

「……可愛いよねぇ……」

 メアドを聞いた時の呆けた表情も、淡白な表情も、笑顔も、行動も可愛らしい彼女を思い浮かべる。
 きっと泣き顔も怒った顔も可愛いんだろうな。

 ―――絶望に塗れた顔も、幸せそうな微笑みも、きっと。

「"明日、朝5時学校正門前集合"――平助に一君、もちろん千鶴ちゃんも来てくれるよね」

 今ちょうど11時だけど――と、沖田はメールを送信する。
 宿題に手を付けることなく、沖田はそのまま布団に潜り込んだのだった。




*
(20130904:公開)  

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