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────長い、長い道程だったと思う。

春の桜が散り終え、緑の芽が息吹き始めた。木々に残る花はひとつもなくなり、緑の小さな芽が目立つ。

生き生きと生命の力を見せてくれるような景色。

この地は京よりも季節が遅く感じる。

暦の上での立春はとうに過ぎ、夏に近付こうとしている。けれどまだ、そこかしこに春の気配が残り、まだ春は続いているのだと知らせる。


「ゆっくり流れているようですね」


まだ残っていた、小さな花弁を摘まみながら口を開く。

こうして迎えに行く道程に雪を見なくなったのはつい最近だ。


「そうだな」


低く、穏やかな声が返ってきた。

私はそんな一さんの隣に並んだ。さして背が高くない彼の顔が自分の顔の直ぐ上に来る。

懸命に走った。懸命に駆け抜けた。

決して短くない年月だったというのに、それは今思い返してもあっという間の日々だったように思う。

江戸から京へ。京から会津へ。

只ひたすら、ついていった。

その軌跡をなぞるように、その足跡を踏むように。

だというのに、今は信じられない程に穏やかな時が流れている。


「此処まで、ずっとずっと、続いていたんですね」


私が摘まんだ花弁を、一さんがそっと取る。


「そうだな」


あのときから、あの夜出会ったときから、ずっとずっと、此処へと繋がっていたのだ。

共に歩み、駆け抜けてきた日々。

まだ、各地での戦争は続いているのかもしれない。まだまだ、新しい世界は拓けていないのかもしれない。

それでも、私達には新しい生活がある。

過ごしてきた日々と、共に駆け抜けた仲間への想いを抱いて此処にいるのだ。


「まさか、あんたと共にいるとは思わなかった」


一さんが花弁を土の上に返しながら言う。


「私もです」


それでも、これが必然だったと思えるのだから不思議なものだ。


「さあ、帰りましょう」


そう言って、どちらからともなく手を取り合い、ゆっくりと歩いた。






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