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────「これって、ふたつでひとつ、なんですかね」

巡察の途中、小物屋で足を止めた千鶴ちゃんが訊いてきた。

巡察の途中といっても、もう平助の隊と交代をしたので後は屯所へ帰るだけの道程だ。

夏も終わりを告げようとしていて、それでもまだ残暑。午後を過ぎたばかりの陽射しは、あまり体調の宜しくない今日はきつく感じる。

「そうなんじゃない」

体調が芳しくないせいで少々機嫌の悪い僕は半ば八つ当たりのような声を出した。けれど千鶴ちゃんに当たるのはお門違いもいいところだというのは理解している。

きついならきついなりの態度を示せば、彼女はこんな風に寄り道したりせず、僕のことを気遣って屯所へ帰る途を急ぐ。それは要らないお節介だけれども。

けど僕はここまで体調の悪い素振りを少しも見せることはしなかった。

隊士達に病のことを気取られなくないのは勿論だし、何より、千鶴ちゃんにそんなふうに気遣われるのが煩わしいから。煩わしいというより、何だか、嫌だ。


だというのに、今は不機嫌な態度を取る。


体が相当きついのもあるが、それくらい、態度に出さなくても気付いてよ、というのもある。


──天の邪鬼なのは、自分が一番知っている。

そしてそれは、何も千鶴ちゃんに対してだけではないことも。

千鶴ちゃんは僕が不機嫌なことを直ぐ様察知したらしく、刹那、考え込む表情を作った。恐らく、原因を考えているのだろう。

「あ、あの、早く帰りましょう」

そして見事に、僕の不機嫌の理由を見抜いたようだ。


……多分、顔色でも悪いのだろうけど。


「別に、ゆっくり見てていいよ」

笑顔を作って言うと、千鶴ちゃんは反射的に怯えた表情になる。大方、怒らせたとでも思っているのかもしれない。

これは気紛れに苛めているようなものだ。本心からゆっくり見てていいと思っているわけでもないが、怒っているわけでもない。

でも、見てていい、と思っている方が大きいのも確かだ。

千鶴ちゃんはこうした巡察の機会でもないと外に出ることは出来ない。だから、こんなふうにして、店を見ることも普段からは出来ないのだから。

「あの、でも」

「これ、一対なんだね」

僕は千鶴ちゃんが手にしていたもを、そっと取った。

それは梅の木を模造したもので、来い桃色がよく出来ている。

枝になったそれを、千鶴ちゃんの髪にそっと挿してみる。するとそれはまるで簪のようで。

小さな花が千鶴ちゃんの小造な顔によく似合う。

「ふたつでひとつ、一対なんだ」

僕は呟くように言ってから店主を呼び止め、それの代金を払った。千鶴ちゃんは僕の一連の行動に驚いてか、声を出せずに、目をきょろきょろとさせている。

「一対、ですか」

残ったひとつを玩ぶ僕を見上げながら、千鶴ちゃんは訊いてきた。

「そ、一対。だから、残りのこっちは、誰かにあげて」

残ったひとつを千鶴ちゃんの手に握らせる。見た目よりもうんと軽いそれは、きちんと握っていなければ取り落としそうだ。

「それなら、沖田さんに」

「え?」

そっと返されたそれと千鶴ちゃんを、思わず交互に見てしまう。

「冬の寒さの中で咲く梅の花は、沖田さんにぴったりの気がします。後、平安時代に藤原道真を追って清国から来た飛梅、という話をご存知ですか?」

それは何処までも近藤さんを追い掛ける僕のようだ、と千鶴ちゃんは小さく微笑んだ。


「さ、屯所へ帰りましょう」


千鶴ちゃんはそう言った後、自分の髪に触れて、ありがとうございます、と再度微笑んだ。








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