14.08.22 合鍵(千鶴×土方SSL)
────合鍵、という響きは何処か甘く感じる。
千鶴は可愛らしい猫のキーホルダーを付けた鍵を眺めながら、頬が緩むのをどうにか堪えた。
道を歩きながらそんな顔をしていたら、只の怪しい女だ。
そう思ってはみても、この手にした鍵がどうにも気を弛ませる。
土方が独り暮らしなのは高校生のときから知っていた。……どんな部屋なのか想いを馳せてみたこともある。
高校のとき、バレンタインに告白し、その想いを受け取ってもらうことが出来なかったときは、まさかこんな日が来るとは思いもしなかった。
いや、いつかは、と夢見てはいた。
きちんと卒業し、きちんと大学に行き、彼と同じ教職に就いて、そしてきちんと正面から向き合うことが出来たなら、と。
そして、それが本当に叶ったことは千鶴にとって、心から嬉しいことだった。
普通の公務員であるならば、教師同士で付き合う以上、片方は移動をしなきゃならないのだが、そこはさすが私立薄桜学園。二人の付き合いは校長である近藤をはじめ、その他の教員達も知っているが、他校に移れなどの達しはない。
土方と付き合う始めたときはそれを危惧していたが、要らぬ杞憂で終わったのだ。
寧ろ、他の教員達は温かい目で見守ってくれる。
それは千鶴が在学中、唯一人の女生徒として、努力したせいもあるのだろう。
──土方の部屋は想像通りだった。
きちんと片付いてはいるが、何せ、資料関係の書物が多い。彼が教師という職を誇りに思い、そして校長である近藤を支えていきたいと思っているのが、本棚から溢れた書物達が教えてくれる。
千鶴は合鍵を使って入ったことに多少の興奮を覚えながら、少しの掃除と、夕飯を作り、土方の帰りを待った。
今日は日曜日なのだが土方が顧問を務めている剣道部の試合がある為、昼間に会うことは叶わなかった。しかし、学校に行けば毎日あえるので、それを寂しいと思うこともない。
毎日会える。
高校を卒業後、それがどんなに幸せだったのか、身に染みてわかった。そしてまた、それがどんなに幸せなのか毎日実感している。
そして今は、学校の外でも会えることが出来る。
千鶴は作り終えた夕飯を並べ、合鍵を見詰めて微笑んだ───。
「千鶴ちゃん、久し振りー」
「沖田先輩もご一緒なんですかっ?」
土方の帰宅と共に、沖田が訪れたことに、千鶴はほんの少しだけ落胆したのは言うまでもない。