14.07.31 ギター(珠紀×真弘)
────「かっこいいだろ?」
目をきらきらと輝かせて訊いてくる様は、かっこいいというより、可愛い、だと思う。
私は真弘先輩の手元と、というか、上半身の辺りに視線を向けた。そこには、何ともかっこいいギターがある。
そう、確かにギターはかっこいい。
けれど真弘先輩が訊いてきているのは、無論そこではないはず。ギターを持っている自分がかっこいいだろう、ということ。
……ちょっと面倒臭いな。
私は正直な意見を溢しそうになった。
だって、ここで素直に、ギターはかっこいいですね、と言ったら怒りながら拗ねるのだろう。かといって、彼の期待に添えるようにかっこいいですね、とか言って、調子に乗らせるのも嫌な話だ。
──正直、この人にはあまりかっこいいというのを自覚して欲しくない。
確かに、拓磨のように逞しい体つきで男らしくかっこいい、という見た目ではないし、
祐一先輩のように誰が見ても溜め息を洩らす程の美形でもないし、
慎司君のように愛くるい美少年というわけでもないし、
卓さんのように甘めの端整な顔立ちの美青年というわけでもないし。
背も私より三センチも小さいし、筋肉質でもない体は小柄な方。
けれど、顔立ち自体は整っているのだ。
羨ましいくらいに大きな翡翠色の瞳。
そう、顔の造作自体はとても整っているのだ。
けど、先輩は背が低いというコンプレックスに囚われている為、多分自覚はないのだろう。
真弘先輩の性格なら、身長が低いのも含めて自分だとか言い張りそうなものだが、どうやらそんなことも言えないくらいコンプレックスのようだ。まあ、そうなものだが、思うのも仕方のない身長ではあるが。
ならば、そこに着目しているくらいでいい。
身長はどうであれ、顔がいいという自覚だけは持たれたくない。
……理由は簡単だ。
真弘先輩は、何より美人が好き。なので、そんな美人に迂闊に近付かないように、自覚を持たれたくないのだ。
「……その為にバイトしてたんですか?」
私が漸く出した言葉はそれだった。
「おう」
真弘先輩は何故かそれに自慢気に頷く。
何故浪人生がバイトなんてしているのだろうと思ったら、まさかそんな理由だとは。さすがにそれは、呆れてちょっと物も言えない。
というか、もしかしたら、差し迫ったクリスマスの為かな、とかちょっと期待もしてたりした自分が可哀想だったりもする。
「じゃあ、もうバイト辞めるんですか?」
「いや、続けるつもりだけど。まあ、さすがにシフトは減らすけどな」
その理由に思い当たる節もある。
バイトを始めたばかりのとき、バイト先の子が可愛いだとかいうのを、どうやら祐一先輩に言っていたらしいのだ。
……なんか、何もかも悲しくなってきた。
こんなことを思いたくはないのだが、私だけがこんなに好きなのかと考えてしまったりする。
「だって、来年東京行ったら、お前と色んなとこ行きたいからな。だから、今のうちに金貯めとこうと思ってさ」
──いとも簡単に、私の不安など拭い去ってしまう。
そんな人だと、誰にも気付いて欲しくないと思うのは我が儘なのだろうか────。
「バイトばっかりしてて、大学落ちたらなんの意味もないですよ」
「んだよ、可愛くねぇなぁ」
可愛くないのは重々承知だけれど、それでもいいと思ってくれると確信出来るのは、自惚れではないだろう。