14.07.14 バス(千鶴×原田SSL)







────見慣れた景色ではない場所。初めて乗るバス。

バスに乗るのが初めてというわけでは、勿論ない。この行先のバスに乗るのが初めてなのだ。

行先は名前しか知らない街。そこに何があるのかも知らない。住んでいるところからさして離れていないというのに、何も知らない場所だ。

一人で初めて乗るバスは何処か緊張があり、乗り過ごしてしまったらどうしよう、という想いもある。

本当は二人で、並んで座り、これから待ち受ける場所を楽しみだね、なんて笑いながら心待ちにしたい、という気持ちもある。

けれど、それは今は決して叶わないことで。

自分で納得して、自分でも理解して、それが最善だと思って選んだこと。なのにそれを寂しく思うのは、我が儘以外なにものでもなくて。


私は苦笑して、窓の外を眺めた。


彼は先のバスに乗っているのか、それとも後からのバスで来るのか。



────「早かったな」

バスを降り立って直ぐに、その顔を見付けた。

「原田先生っ」

私はバスの中で感じていた憂鬱をすっかり忘れて、その名を呼んだ。すると、原田先生はいつも通りの穏やかな笑みを浮かべてくれる。

二人で会うときは地元から離れた場所。

それが私達、教師と生徒が付き合ううえでの決め事だった。

学園の誰にも会わないような土地でなら、手を繋ぐことも、寄り添うことも出来る。離れた場所に行かなくてはならないぶん、会える時間も自然と短くなるのだが、それでもその時間はとても密度の濃いものだった。

そして決まって、帰り際にはまた、寂しさが襲うのだ。


別々のバスで帰る。


本当は一緒に、今日は楽しかったね、とか言いながらバスに揺られてたいけれど、今は決して叶わないこと。わかっていてもまた、寂しくなる。

それでもいい、と思ったのは自分なのに、原田先生を好きという気持ちがそれを邪魔するのだ。

「気を付けてな」

バスに乗る際に掛けられた言葉に頷く。彼なりに、私を守る為に決めたことなのに。

……やっぱり私は我が儘な女の子なのだろう。

バスの中で溜め息を吐いたとき、ケータイがメール受信を知らせた。送り主は原田先生。

私は急いでメールを開く。

『今日は会えて嬉しかったし、楽しかった。今度は何処に行きたいか考えといてくれ』

短いメールでも嬉しくなる。

私は原田先生と話をしているつもりで返信を打ち、それにまた返事がくる。

──うん、これだけで十分だ。

原田先生からのメールはバスの中でずっと続き、それは私の憂鬱を払うには十分だった────。



『しかし、千鶴が一人でバスに乗ってるのも不自然だよな』
『それは、原田先生もだと思います』

それでも、会いたい人に会う為ならば、一人で何処へでも行けると思った。








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